Gardner memory �� ページ39
本能的に感じた恐怖に、僕は土砂降りの雨の中を走った。何日も食事を口にしていないせいで、頭は痛いし足はふらつくしで散々だった。
それでも走った。
転びそうになろうが、足が痛くて泣きそうでも、雨粒が当たって痛くても、脇目も降らずに走った。
町に出たらって、甘いこと考えてた。
世の中、そんなに甘くもない。
町は火の海だった。
僕が確かに生きた町が、家が、通っていた学校が、全部燃えていた。
あちこちで銃声や爆発音がして、どうしていいかわからなかった。ただ夢中で建物の影や、地面に掘られていた穴に潜り込んだ。
あちこちから聞こえる人の死ぬ音、火薬や血の臭い。建物や人が燃える音に臭い。
叫び声や怒鳴り声、悲鳴、泣き声。
誰かが、「人殺し」と叫んだ。その声も消えた。
僕は声を殺してガタガタ震え続けた。一晩中、ひとりぼっちで膝を抱えた。
誰も助けになんて来てくれない。皆自分の事で精一杯だ。仕方がない。
このビルに来てから、僕が住んでいた町は、戦争の犠牲になったと知った。避難は、言い渡されてなかったとも教えてもらった。
人の命ってなんなんだろう。
静かになってから、僕はガラクタと死体だけの町を宛もなくフラフラと歩いて回った。
母さんと住んでいた家は無くなっていた。跡形もなく、消え去っていた。
泣きたいのに、それなのに、涙も出ない。
人間は限界を迎えたら感情が消え去るんだと知った。
遠くの方、人の目につかないような場所から、大勢の男の人の声が聞こえた。なにか怒ってるみたいだった。泣いてる人もいた気がする。
でも、それもよく覚えていない。
だって、直ぐに耳を塞ぎたくなるような銃声がした。連射銃の、発砲音。
叫び声がした。慟哭がした。泣き声がした。
「どうして」って、「助けて」って声がした。
でもそれも消えた。
殺されたから、声も銃声も、全部消えた。
戦争ってやつは、たった数時間で全部を灰にした。
全部、消し去ってしまった。
泣き叫べたらまだよかった。
呆然と立ち尽くす僕に、誰かが声をかけてくれた。
お母さんは？って聞かれた気がする。
そこで僕は初めて泣いた。
何も答えないで泣き叫ぶ僕の頭を撫でた手袋越しの手が、酷く暖かくて、優しかった。それしか覚えてない。
顔も、名前も、覚えてない。
それが少し、残念だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 123人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ネロ - らっぴょこさんさん» 同じく (2021年3月26日 21時) (
レス) id: 60a73795c6 (このIDを非表示/違反報告)
うわばみ��(プロフ) - ルキさん» ありがとうございます！頑張ります！ (2020年10月30日 22時) (レス) id: baf7cd5c38 (このIDを非表示/違反報告)
ルキ(プロフ) - あぁぁぁっぁ好きっ！(唐突)更新頑張ってください！応援してます！ (2020年10月30日 21時) (レス) id: cf78d11b1b (このIDを非表示/違反報告)
うわばみ��(プロフ) - らっぴょこさんさん» そう言って貰えて嬉しいです。これからものんびりですが、頑張ります。 (2020年9月13日 21時) (レス) id: 5c7d5c749b (このIDを非表示/違反報告)
らっぴょこさん(プロフ) - あ、好きです。殺戮の天使もdも好きなので､､、こういうフリーホラーゲームとコラボ(？)してる作品って少ないですので､めちゃテンション上がりました！応援してます！ (2020年9月12日 23時) (レス) id: c590781f3e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：うわばみ�� | 作成日時：2020年8月15日 17時
