兄に憧れた男の末路 ページ5
「まァ、テメェがどう思おうが構わねぇが……」
紫煙を吐き、短くなった吸殻を潰して土方が言う。
話を聞いていたのは、なにもAだけではなかった。
「テメェが加担したのは浪士じゃねえ。天人の手先だ」
「へ……」
「世間知らずが功を奏したか。今じゃ天人と手を組んで攘夷活動をする輩がいるのは当たり前だ」
「え、じゃあ……志士は、あれは…」
「テメェの話を聞くところ、天人に雇われた浪士崩れってところか。どっちにせよ、テメェが憧れていた攘夷志士なんつーモンはもういやしねぇよ」
「いやァ、いるけどね。そこら中に手配書貼ってるツラがあるけどね」
ぽつりと銀時が零すも、それは雪慈には届いていないようだった。
攘夷活動に加担していたと思えば、その実天人に操られていたに過ぎなかったということか。
自分が憧れた攘夷志士は、かつての敵と手を組んでいるということか。
突きつけられた現実が受け入れられず、徐々に焦点が合わなくなる。
地面に付きそうになる膝を立て直そうとするも、自分がこれまで信じていたものが虚構と知り耐え難い事実に直面しているようだった。
「何にせよ、テメェが麻薬製造に協力したことに違いはねェ。きっちり話は聞かせてもらうぜ」
「そんな……俺は、おれは……今まで、何を…」
土方の声さえ届いておらず、足元を見つめながら震える雪慈に銀時のぼんやりとした問いかけがかかる。
「兄ちゃんよぉ、年下のガキに負けっぱなしだからって逆恨みはよくねぇんじゃねぇの? そりゃあ、刀振り回すくれぇならガキにも猿にでもできらァ。
けどな、テメェが憧れてた志士ってモンは自分の大切なモン守るために刀奮ってんだよ。国にせよダチにせよ、それぞれ命賭けてでもその手で守ってやりてぇもんがひとつはあった。お前どうだ、兄貴に憧れたはいいけどよ、大切なモン見つけられたか? 何か一つでも、大事にしてェってもんあったかよ」
攘夷戦争は、誰もが国のために闘った戦争とされている。
その国には、家族や恩師、友人に親類に土地に、色々と自分をこれまで繋げてくれていた存在がある。
それら全てを引っ括めて、守りたいと思ったからこそ剣を取ったのだ。志士に憧れがあるのは、ヒーローに憧れる心理と似ているのだろう。雪慈にとって、それは兄の存在がまさにそれだった。
だが、ヒーローのように強くもなければ年下に負け、志は親に理解して貰えない。理解者が居ないことが最大の理由だったのかもしれない。
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りんこ(プロフ) - いつも楽しく読ませて頂いています!もし決まってましたら、大前兄妹の年齢を教えていただけないでしょうか? (2021年2月24日 15時) (レス) id: 5b2ad52f60 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:pillow | 作者ホームページ:
作成日時:2021年2月23日 17時