裏切りの急転直下 ページ3
「えっ……」
『汚ぇオッサンに紛れて、一人だけ若ぇのが混ざってやしたぜ。
おにーさん、これオモチャ? 随分しっかりしたモン持ってんなァ』
「ちょ、ちょっと待って……その人の、名前って」
『あー待ちなせェ。
おにーさん名前は? 免許証とか持ってる? 無い?』
どうか間違いであってくれ。そんな訳ない、彼が手引きした張本人とは思いたくない。
だが、Aの願いは虚しく散ってしまう。
『身元取れやしたァ。えーと、寺岡雪慈? これユキジって読むんすかィ』
土方を押し退けていた手が震え、がくんと膝をついた。
信じたくなかったのだろう現実が、無情にも目の当たりに突きつけられる。
「おい……コイツは」
「道場を……兄弟を、任せていた従兄弟です。道場の門下生で…」
「そうか」
人質の安全が確保されたと報告が上がっても、攘夷浪士全員確保という任務が遂行されても、信頼していた人物の裏切りの衝撃より上回ることは無かった。
ぎりっと手のひらから血が出るほど握りしめ、ぶつけようのない怒りを何処に吐き出すことも出来ず。
銀時や新八、神楽もかける声が見つからず、土方の帰還命令が出ても苦痛に歪む顔が戻ることは無かった。
「攘夷浪士共の尋問は屯所で行う。お前らは帰れ」
「オイオイ土方君よォ、こんなになってる女放っといて帰れってか? ンな冷てぇオトコじゃねぇよ、俺らはよ」
「そうアル!! Aほっとけないヨ!!」
「何より、あんな状態のAさんが心配です。誰かが傍にいてあげなきゃ……」
「お前らみたいなテリヤキのカケラもないヤローに任せておけないアル!!」
「うるせぇわ、デリカシーのこと言ってんのか」
万事屋一家と土方の攻防が止む前に、パトカーに乗せられて隊士たちが戻ってきた。
抵抗する大の大人に混ざり、一人背の低い男が隊士に腕を取られ車から出てきた。
短い黒髪がざっくばらんに切られ、本来白かったであろう肌は青い。目の下にある隈がくっきりと残り、男前だったはずの顔立ちが半減されている。
彼を認めたAは、項垂れていた姿勢から立ち上がり地を蹴った。
いがみ合う万事屋と土方の間を飛び越え、助走をつけて彼の顏を殴り飛ばした。
「オイッ!!」
「取り押さえろ!!」
開ききった瞳孔に怒る肩、握り込む拳を固めてもう一発と振りかぶるAを隊士数人で押さえつける。
その形相は般若とも修羅とも呼べるもので、普段朗らかに笑うAとは到底かけ離れたものだった。
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りんこ(プロフ) - いつも楽しく読ませて頂いています!もし決まってましたら、大前兄妹の年齢を教えていただけないでしょうか? (2021年2月24日 15時) (レス) id: 5b2ad52f60 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:pillow | 作者ホームページ:
作成日時:2021年2月23日 17時