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岡 都々喜の誕生 ページ22

銀色の男と、それを追う大きな白狗の後ろ姿を見送り、ゆっくりと身を沈める太陽に背を向けた。

これまで、攘夷志士として生きていた彼らにとって今ある生活は当時から考えられないものになったと思う。


『お前、今までどうしてた』


三和土に座り込み、ブーツを履く幼馴染に問われた。

君はどうしてたの、とは聞かなかった。お互い様だと分かっていたから。




江戸に流れ着いたのは、ずっと前のことだった。

攘夷戦争が集結し、寛政の大獄で同胞は皆幕府に捕まり晒し首にされた。

かくいう自分もそのうちの一人だったが、看守の目を盗んで脱獄。なるべく遠くにと、東北の方へ逃げた。

戦争の爪痕が残る村で、素性も知れぬ自分を受け入れてくれたのは息子が戦死したという寺の和尚だった。

天人の台頭により、国は変わるだろう。だが、自分達が持つ信念だけは譲れない、と。

みっともなく逃げていた自分を、赦してくれたような気がした。


それから程なくして、天人により姿かたちを変えつつある江戸へ向かい、日銭暮らしで日々を過ごした。

安アパートで風呂厠は共同。台所があるだけマシだった。


ようやく安定しつつある日ががらりと変わったのは、いつだったか。

工事のバイトを終えてアパートに戻るさなか、新しくできたという古書店にふらりと立ち寄り、いくつか見繕って購入した。

住居に戻り、晩飯も食さず本を読みふけった。村塾にいた頃以来の、久しぶりに読んだ本だった。


原稿用紙と筆一式揃え、なんとなく思いついたものを書いてみる。これじゃないと丸めて捨てる。書いてみる。捨てる。繰り返して、ようやく出来上がったのは、江戸に流れて四年が経った頃だった。

その時は、もう既に現在に程近い江戸が出来上がっており、出版社も版画ではなくコピー機を使っていた。

とりあえずできたはいいものの、どこへ出したらいいか分からず茶封筒に宛先を書いて送ってみた。


通知が来たのは、翌月のことだった。

なんとなしに書いたそれが、さる有名な文学の作品賞に選ばれたのだという。

なんだかよく分からないまま来てくれと言われ、うちで本を出さないかと誘われた。答えはすでに決まっていた。

元攘夷志士という経歴は隠しておいたが、なんと文芸部の編集者の一人が同じ経験者で、自分のことも知っていた。今は、倒幕思想が無い限り仕事は見つかるらしい。

処女作はヒットを生み出し、取り壊す予定のアパートから退却して現在の城を構えた。

つまらない物語だ。

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たまごどーふ(プロフ) - 銀魂の男主小説、最近数少なくなってるので読めるのがとても嬉しいです…更新頑張ってください! (2021年2月19日 23時) (レス) id: 45f2a26062 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:pillow | 作者ホームページ:   
作成日時:2021年1月28日 21時

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