スナックお登勢の新人さん【坂田銀時】

どうして来たの？ ページ5

担当者は金稼ぎの部分に着目し、他の要望は切り捨てていた。

女なんだから、売れるものは売っとかなきゃ。などと抜かす口を聞いた日には、かぶき町の女帝が黙っちゃいない。

Aとしては得意の料理や裁縫が活かせるような職場を希望していたが、そんなんじゃいつまで経っても金は貯まらない、住み込みのところも今は空きはない、などと却下されたという。

身体を売ることがどんなことかは分かっていた。あまり気は進まないし、そもそもそれで本当に高額が稼げるのかも分からない。

澱む彼女を見かねて、お登勢が声をかけたのが始まりだったらしい。


「なんつうか、偏見の塊みてえな男だな」

「女は売ってかなきゃ稼げないと本気で思ってんのさ。ちまちま稼ぐってことを知らないで、よくハローワークの職員なんてできたもんだ」

「そもそも、なんでそんなに金が要るんだ？ まぁ、要るから出稼ぎしてんだろうけどよ」

「あ、えと……仕送りを、したくて」

「仕送り……」


Aが住んでいたのは、駿河の田舎の方で両親は2年前に死別。家族で少ない貯金を崩して生活していたが、それも底を尽きそうになり、駿河の都会の方で働いていたときに江戸を薦められたらしい。

真面目な働きぶりに、スポンジのような知識の吸収力。礼儀正しいし、君なら行ける、と。

上京を薦めてくれた人は、住み込みで働ける場所を紹介すると案内状を書いてくれた。

そして、家族に上京して仕送りをする旨を伝えると、散々泣かれたりごねたりされたが承諾され、江戸に来たという。

しかし、紹介された仕事先は上京する3日前、攘夷浪士の武器密造工場として奉行所及び真選組に踏み込まれたことから実質破綻してしまい、路頭に迷うはめになったとのこと。


「なんつーか……災難だったな。あんたも」

「江戸って、人生の縮図みたいな場所ですね……」

「波乱万丈ってか？ あながち間違っちゃいねーけど、日常じゃないから。どっか破綻してる訳じゃねえから」

「そうだよ。江戸にゃこんなだらけた男もいるもんさ。髪はもう手遅れだけどね」

「手遅れってなんだ!! 天パか!! 天パが悪いのか!! 世の中ストパーかコノヤロー!! ストレートアイロンにかけてペラッペラにしてやろうか!!」

「騒ぐヒマあるんならペラッペラの紙幣耳揃えて持ってきな!! 次滞納したら追い出すぞクソ天パ!!」

「クソっ。気ぃつけろよ、このババアがいつ腎臓狙ってくるか分からねぇからな」

「テメーの腎臓売り捌いてやろうか天パ!!」

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