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「落ち着いたか?」
まとまらない思考の中なんとか気持ちを落ち着ける。
涙はすっかり止まったが、撫で付ける優しい手に思考が絡めとられるようで平常心にはなかなかならない。
やっとの思いで声を出すが喉が張り付いたように上手く声が出なかった。
…情けない。
「うん…。ごめん、色々と。」
「いんや、ふざけて俺も悪かった。」
「駿貴と…飲めなくなっちゃ…、うのが、ホントにいやだったから…。」
ズビと鼻を啜る。ああー、鼻が詰まって息が苦しい。泣きすぎて頭はさらに痛くなった。
「あー、あ。綺麗な顔が台無しだぞ。」
「ぬぅ…、駿貴が悪い…。」
「ハハ、悪かった。Aもう起きるか?起きるなら紅茶いれてやるよ。」
謝罪をしながらよっぽど応えたらしい駿貴はせめてもの償いか、よく泊まるせいで物の場所を把握した紅茶を淹れてくれようと服を着ながら起き上がる。
駿貴の重みですっかり沈んでしまっていたベットは元の広々としたいつも寝ている状態になった。
人肌の暖かさも失せたせいで部屋の空気の冷たさに体が震えるが、昨夜化粧もそのままに寝てしまったので今は暖かい紅茶より熱いシャワーを浴びたい。
「んー、ん。シャワー…浴びたいわ。」
「それもそうだな。昨日汗かいたわ。お前運ぶのに。」
「すみませんでした…。先によかったら使ってもいいよ。」
「じゃあ、お言葉に甘えとくわ。」
そう言うと駿貴はまた私の頭を撫でた後、シャワールームへと姿を消していった。
正直、今日の事は何がきっかけだったのかはわからない。
今までも何度かこうしたやりとりを繰り返してきたが、ここまでどことなく…あまり気付いてはいけない甘い雰囲気になったことは無かったので戸惑った…と言う部分が多いのは確かだ。
そこまで馬鹿な女でもない。それなりの感情を向けられていることはわかっていた。
でも彼の中にあるたまにちらりと顔を出すそれは私は相応しくないと。見ないふりを今日もするしかないのだから、やはり馬鹿な女ではあるのかもしれない。
グルグルと、そこまで思考を巡らせたが部屋の寒さと未だ残る頭痛に負けた私は寒さをシャットアウトするために、より深く布団にくるまり惰眠をむさぼろうと二度寝の体制に入ったのだった。
(大人になることに昔は憧れたが、今はただ大人になったことが苦しいと。)
(そんな風に思うようになるなんて思ってもみなかった。)
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作者名:未果子 | 作成日時:2020年12月25日 1時