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第3章-6 ページ28

「自我がなくなって徘徊する人と、自我があり言葉も通じる、つまり、発症前と何ら変わらない状態で生きていられる人。あたしらはそっちだから、安心して!」
「……本当?」
「あたしと兄貴だけじゃない。というか今回の『暴動』がおかしいだけで、黒服3人組もそうだし、本当はちゃんと生きられるの!」
「そうなの?」
「数年前から――ううん、数十年前からずっと、『あたしら』は存在してたんだよ!」
「…………」

 絶句。
 全く知らないことが知らないうちに起きていた。私は何も知らなかった。

「あたしらは『moi』っていうグループをつくって世界各国をまわってるんだ」
「モワ?」
「黒服3人組がフランス大好きでさ……。前にフランスに行ったとき、感じがよかったみたいで。あたしに分からないフランス語で会話されるのめちゃくちゃ腹立つよね……英語でお願いしますって感じ……。いやそんなことはどうでも良くて」

 そこで初めてビーさんは私の方をちらっと見て、笑った。

「政府はあたしらごと、発症者の抹殺計画を立ててるみたいだけど……そんなの絶対許すもんか!」

 叫びながら、襲い掛かってきた奴らに左ストレートを繰り出した。
 よだれを垂らした男の人は、白目をむいて仰向けに倒れた。
 ビーさん……強い。
 あと怒りと笑顔の切り替えが早すぎて掴めない。

「……」
「ああごめん……。元々はウイルスで、人類に適合して遺伝子になったみたい。んで、そういう人は国に管理されてる。本人が知らなくてもね。これは数十年前からずっと行われていること。知らない?」
「知らない……」
「ニュース見なよ」
「TVを見る習慣がなくて……」

 そもそも私にTVを見る権利はなかった。
 ビーさんは何でもないことのように「あっそ」と肩を竦めた。

「その遺伝子があるメリットは、まず傷の直りが早い。運動能力に影響も出て、体育のクラス分けもされてる」
「そうだったんだ……」
「『遺伝子に合わせてクラス分けします』なんて言わないけどね。でもクラス分けはされてるでしょ?」
「うん。されてる。それが理由だったんだ……」
「そ。ただ、デメリットはいつその遺伝子が顕現するか分からないってこと。持ってるだけだと効果はないの。博士が色々言ってたけど、良く分かんなかった。何かと何かが必要みたい」
「……『奴ら』みたいに、自我がなくなることは?」「ない」

 間が全く開かない即答に、私は目を丸くした。
 ビーさんは続ける。

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作者名:めいろ | 作成日時:2019年12月16日 22時

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