第2章-8 ページ18
諦めてまた走り出す。
体育館には入らず、左に折れて奥に続く廊下へ。一番奥のバッティングセンターまで走った。
さいわい『奴ら』はいなかった。
壁に背中をつけ、呼吸を整える。
ちらりと廊下に目を遣るが、追ってくる様子もない。扉を開けられなかったとか……?
(逃げ、切った……?)
長く息をつき、ずるずると地面にへたり込む。
「疲れた……」
あのツナギの2人組は何だったんだろう。
(あの2人は私に何らかのメッセージを伝えようとしていた)
(感染していない人……かな?でも奴らにあそこまで近づく理由なんてないよね。それなら……)
推理しようとするが、分からないことが多すぎる。少ない情報で考えられることは、彼ら2人が何らかの理由と手段で奴らの『フリ』をしている一般人か、奴らを『解き放った』側の、奴らを管理する側の人間か――ということ。
(それならまずい)
(本当にまずい)
(お母さんを助ける前に――消される)
『奴ら』は私が今までに見てきた――あるいはゲームで疑似体験してきたゾンビものとはあまりにも違いすぎる。
ウリさんが言っていたように、自分がいつ『奴ら』になるか分からない。分からないということがこんなに恐怖だったなんて、学校でもどこでも教えてはくれなかった。
今、私は人間として生きている。
もしいつか『奴ら』になってしまうなら、その前に絶対に家に帰らないと。
(奴らの足が遅くて良かった……)
と、私は本日何度目かのため息をこぼした。
(……それにしても静かだなあ、ここは)
先ほどまでの喧騒が嘘のよう。
森の中だからってのも、あるんだろうけど。
「……夏とお母さんは、無事かなあ」
一人呟く。
(夏の奴、助けを求めてきた知らない人を家に入れたりしてないだろうな……?)
(ドアに鍵掛けとけって言うの忘れてたなあ……。いやでも中学生にもなって不審者を家に入れたりしないよね……?)
もう一度ため息をついた。施設に住む兄弟は私が一番上で、その下に夏、その更に下にあと小学生が3人いて、最年少は5歳になったばかり。私が母を殺そうとしたときその4人は4人部屋で昼寝をしていたはずだから、家にいた――はず。
……確証が持てないのは、彼らは私が怒られている隙をついて、勝手口から抜け出して遊びに行くこともあったからだ。寮父がそれを黙殺していたのか、気づいてなかったのかは分からない。でも多分、黙殺していただけだろう。
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作者名:めいろ | 作成日時:2019年12月16日 22時