第2章-4 ページ14
リビングに続くすりガラスの扉が目に入った。向こう側では、いくつもの影が蠢いているのが見えた。さっきの男性が言う『仲間』と奴らが戦っているんだろう。……あの赤髪の人とか。
すぐそばに奴らがいる。
そう考えるだけでゾッとして、私は早足で玄関に戻った。
黄緑色の髪をした男性は女性を止血するためか、ダメージジーンズをハサミでジョキジョキと切っていた。女性は痛みでぼろぼろと泣いている。
「すげえな。さんきゅ」
タオルを持つ私を見て目を丸くする男性。私は親指を上に突き立ててそれに応えた。私も男性の隣にしゃがんで、女性の止血を手伝う。「ありがとう」と涙ながらに言う女性に軽く会釈して、私はタオルを女性の患部に巻いた。
「俺はウリ。こっちはハル。お前は?」
「ゆ、邑です」
「ユウちゃん一人?」
「……はい。お母さんが倒れて。119番も繋がらないから、救急隊員を呼びに行こうと思って。近いから駅に行こうかなと思ってるんだけど……」
「あー、やめとけやめとけ」
男性――ウリさんが私の声を遮って首を振った。
「俺とヌエ――あっちで戦ってるさっきの赤髪の奴、最初は二人で駅にいたんだ。もうパニック状態で、命からがら逃げてきたよ。ありゃあ地獄だったね」
「……そう、なんだ……」
「病院もお勧めしない。どうせ今頃奴らの巣窟だ」
「え?」
「この騒ぎが起きたのは、この辺りではほんの数時間前だけど、都会の方では数日前から起きてたんだ。だから都会の方からどんどん患者が移されて、もうてんやわんや。ただ俺のこの情報も古いから、今は病院自体が生きてるかどうかも分からない」
「…………」
「そんな顔すんな。だからお前、スポセンに行け。あそこは医療センターも兼ねてるから、救急隊員が常駐してる。まあ、生きてるかどうかは――分かんないけどな」
「……ありがとう」
親指を上に突き立てて応えるウリさん。
「一緒に行くか?と言いたいけど…。俺の一存では決められない。ここを制圧して、どうするか決める。……できればスポセンに行きたいけど、走れる奴らがどれだけいるか……」
そう言ってちらりと女性――ハルさんを見るウリさん。
ハルさんは「大丈夫、頑張って走る。ダメだったら置いて行って」と弱々しく笑った。「それは本当の本当に最後の手段だよ」とウリさん。苦笑いして、私を見た。
「こんな感じですぐには動けない。だからユウちゃん、先に行け。お母さんを助けるんだろ?奴らの弱点教えとくから」
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作者名:めいろ | 作成日時:2019年12月16日 22時