【天王()】表裏一体な毎日【短編集】

暇を持て余した軍曹の遊び�� ページ5

「チョコの細胞とは」と軍曹。

「じゃあチョコ味の耳にしようか」とめいろ。

「待って？！？！？！？！？！」

　左手で猫犬の口を押さえ、右手で綿棒をくるくる回すめいろ。

「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜！」

　叫ぶ猫犬。ぺろりと舌を出しながら、めいろが綿棒を口の中に入れようとした、その瞬間。

「いたずらもほどほどにしんしゃい」

　パアン！と音がしてめいろの頭が勢い良く前方に傾く。その先には猫犬。
　二人のおでこはいい音を出して衝突した。

「ぎゃあ！」

「イタッ！」

　軍曹は目を丸くして、めいろは涙目で後ろを振り返る。

　そこにはスマホをいじっていたはずの栗花落が、ハリセンを持って立っていた。栗の仮面で見えないはずなのに、冷たい視線が身体をつらぬく。
　元々そちらを向いていた兄貴はくすくすと忍び笑いをしている。一体いつから気づいていたのか。

「く、栗さん…」

　顔を引きつらせるめいろ。
　自分は怒りの対象ではないのでは、と軍曹がそろりそろり、めいろから離れる。
　しかし栗花落も逃さない。音もなく、軍曹の方を見遣る。

「う…」

　固まる軍曹。

「おら、そこの兄貴」

「え、ワイも？…はいスンマセン」

　顎で座るよう指図する栗花落に、素直に従う兄貴。

「お前ら、一回本当に痛い目に合わないと分からないらしいな」

「ご…ごめんなさい」

　その場で土下座をするめいろ。彼女の土下座は安すぎることで有名である。
　栗花落はハリセンをぺしぺしと手に当てた。

「軍曹が天王()で暇つぶしして、めいろさんが天王()で実験するっていうなら、そんで兄貴がそれに便乗するっていうなら、俺の暇つぶしにも実験にも便乗してくれても問題ないよな。な？」

「う…」

　僕嫌な予感がする、と軍曹の脳内で猫犬の声が再生された。
　裏天王()で最強の座を争っている栗花落。だが彼女は、他の天王()とは違ってメンバー同士で争うことを滅多にしない。力の使い方を弁えている。我慢強い、と言うべきか。


　そんな彼女が、その我慢強さを取り払ったら。
　メンバーに惜しげなくその力を振るったら。


　軍曹、めいろ、兄貴全員の頬を、汗がつたう。

「天王()内での過ぎた内ゲバが何をもたらすか、教えてやるよ」

　そう言って、ハリセンを振り上げる栗花落。
　猫犬は目をつぶり、耳をふさぐ。

「ぎゃあああああああ」

「嫌だああああああああ」

「ごめんなさいいいいいいいいい」

　広い家に、3人の悲痛な叫び声がこだました。

END

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