10．夜に滲むはあなたのまぼろし ページ10
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「もしもし、Aちゃん？今何してるん」
「いま、パックしてるとこ」
「ごめんね、急に」
「そう言っていっつも急だからなあ」
「ごめんて、今日な、スワンボートに乗ったんやけどな」
今度一緒に行こうという言葉にえ〜と言いながらいいよと答えた。
電話越しなのに喜んでいるような様子が伝わってくる。
最近、純喜くんとよく電話をしている。
内容は大したことないんだけど。
今日はこんなことをしたとか、何食べたとか、あんなところに行って楽しかったとか、天気が良くて気持ちよかったとか、そんなこと。
これに何の意味があるのかまだ気づかないふりをしている。
教室の移動中、外を眺めたら純喜くんがいた。
たくさんの友達に囲まれて笑っていた。
こっちまで笑い声が聞こえてきそう。
純喜くんは大勢でいると意外と聞き役をしていることが多い。
話しかけに行こうかと思ったけど、あまりに楽しそうにしていたのでやめた。
隣に立っている女の子の手が純喜くんに触れたのが見えた。
小麦色の肌、筋肉質な腕、厚い手のひら、笑うとできるえくぼ、友達が多いところ、キリっとした奥二重の瞳。
瑠姫と違うところを見つけては胸が苦しくなる。
戻れないのも分かってるし、戻りたいわけじゃない。
そのはずなのに、いつまで経っても心の中からいなくなってくれない。
こんな中途半端な気持ちでそばにいるのはダメだって分かっているのに、純喜くんの優しさに甘えている。
「Aちゃん、今日３限終わり８号館の前歩いてたやろ」
「うん、純喜くんたち見かけたよ」
「ほんまに？なんで声かけてくれなかったん」
「え〜遅刻しそうで急いでたから」
「じゃあしゃあないな」
おやすみと言って電話が切れる。
いい夢見てねと送られてきたメッセージ。
履歴に並ぶ同じ名前。
その間で１件だけ赤くなった不在着信。
見慣れた名前に心がギュッと狭くなる。
いつもつけているオレンジの光がやけに眩しい。
暗い部屋の中、ギュッと目を瞑って眠った。
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名無し96612号(プロフ) - コメント失礼します！いつもふふさんの作品大好きで密かに読まさせてもらってます！降り注ぐ幸福の下でが見たいのですが、友達申請してもよろしいでしょうか？ (2023年1月31日 23時) (
レス) id: 4a8c56b8ae (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ふふ | 作成日時：2021年4月20日 16時
