検索窓
今日:29 hit、昨日:244 hit、合計:165,684 hit

9.欠けた月を恋う ページ9

.



別れようと言われた先週の土曜日。ほかに好きな人が出来た、ごめんと言う瑠姫の顔を見られなかった。



もうずっと心がここにないのを分かっていた。

それでもそばにいてほしかった。


口を大きく開けて笑うところ、左耳だけに空いたピアス、照れたどや顔、口いっぱいに物をつめこむところ、不器用なところも好きだった。

大好きだった。


でも、もう私の場所じゃない。











夏休みの最後の日、いつもの居酒屋で同期との飲み会。友達の友達もいたりして結構な人数になった。これ何人いるんだ?


純喜くんと会うのも実は久しぶりだった。

最後に会ったのはまだ太陽がカンカンに照り付ける真夏日だった。

何度か純喜くんから連絡がきたけれど、忙しいと言って会わなかった。景瑚から純喜くんが寂しがってるよと言われたけど、スタンプだけ返した。


もう夜は少し肌寒い季節になった。





隣に座った景瑚がA!この前の飲み会の分も飲め!って飲ませるから、完全に飲み過ぎた。足元が揺れている。

あんなに飲ませたくせに景瑚は私を置いて先に帰った。絶対に許さない。

まっすぐ歩けなくて、仕方なく人気の少ないベンチに腰かける。だめだ、もう本当に。



「Aちゃん、水のむ?」
ペットボトルの水を差し出してくれるのは純喜くん。

ありがとうとごめんを伝えると、キャップをあけて渡してくれる。優しい。

あ、やばい、と思った時には遅くても目頭が熱くなる。




「Aちゃん飲み過ぎ。なんかあったんやろ」

と心配そうに見つめる目が苦しい。



「へへ、別れちゃった、好きな人ができたんだって。そんなこと言われたら引き下がるしかないじゃんね。今更私が何を言っても、何をしても心は戻ってこないでしょ。だから、うん。」

「頑張ったな。Aちゃんがいま世界で一番偉いで。せやから思いっきり泣いとき。」



引き寄せられて純喜くんの胸が頬にあたった。腕が背中に回る。
オレンジ色のチェックシャツ越しに体温と鼓動が伝わる。

温かい腕の中、アルコールの匂いに混じってせっけんの香りがする。


ぼろぼろと零れ落ちる涙が止まらない。
こんな情けない姿見せたくなかった。



シャツ汚れちゃうよと言っても一層抱きしめる腕に力がこもった。




「純喜くんにばっかりこんなとこ見られちゃって恥ずかしいな、ごめんね」

「そんなとこももっと見せてや、もっと頼って、一人で泣かんといて」




純喜くんは優しい。だから困る。



.

10.夜に滲むはあなたのまぼろし→←8.言うことよりも飲み込むことの多い一日



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (278 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
946人がお気に入り
設定タグ:JO1 , 河野純喜 , 佐藤景瑚
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

名無し96612号(プロフ) - コメント失礼します!いつもふふさんの作品大好きで密かに読まさせてもらってます!降り注ぐ幸福の下でが見たいのですが、友達申請してもよろしいでしょうか? (2023年1月31日 23時) (レス) id: 4a8c56b8ae (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:ふふ | 作成日時:2021年4月20日 16時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。