36.きみはたからもののまま ページ37
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先週末染め直した髪は別に今日のためではない。
たまたま友達にカラーモデルを頼まれたからであって、決して今日のためではない。
ちなみに言うと昨日の夜パックしたのも友達に貰ったものが余っていただけで、これも今日のためではない。
それに、今日だって就職が決まって暇だったから来ただけで会いたい人がいたからではない。
『瑠姫〜会いたかったよ』
「おー、久しぶり」
『瑠姫が来ると思わなかったわ』
「なんでだよ、たまには来るよ」
『相変わらずイケメンだな!』
「はは、ありがと」
ジョッキを持って俺の席に来て話しかけてくるこいつらは久しぶりに会ったのに、何のブランクも感じさせないからすごいと思う。
まあ酒が入ってるっていうのも大きいんだろうけど。
人見知りというのは簡単には治らないものだって知った。
『そういえばさ、Aとまだ続いてんの?』
「いや、別れたよ」
『そうなん?まあそういうもんか』
「お前は?最近どうなの?」
『それがさー、聞いてよ』
酔っ払いは話がすぐにどっかに行きがちで助かる。
肩を組まれて最近の恋愛事情をグダグダと話す友達の話に適当に相槌を打ちながら、遠くに座っているAが目に入る。
祥生と楽しそうに話しているけど、何を話しているんだろうか。…もしかして俺の悪口とか言ってんのかな。
ぼんやりと眺めていると何度か目が合って、そのたびにAが気まずそうに目を逸らすから
なんだかそれが気に食わない。
『なあ、話聞いてる?』
「ごめん、聞いてなかった」
『も〜しょうがないから最初から話すわ』
「えー?もういいって」
また同じ話を繰り返そうとするこいつの話に耳を傾けてやろうとおもっていたのに、
『え!Aの彼氏めっちゃイケメンじゃん!』
嫌でも聞こえてしまった声に思わずAのほうを見てしまい、照れて俯いて笑うAの姿が疎ましい。
『…瑠姫って意外と』
「なに」
『いや?』
何かを言いたげに苦笑いをして俺を見るこいつの言いたいことはわかる。
だって俺も同じことを思っているからだ。
Aと別れてまで付き合ったあの子は愚痴が多い人で、一緒にいると疲弊してしまいすぐに別れた。
別れてから思い出すのはその子のことではなく、
Aのことばかりで、柄にもなく時間が巻き戻せたらって何度も考えてしまった。
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名無し96612号(プロフ) - コメント失礼します!いつもふふさんの作品大好きで密かに読まさせてもらってます!降り注ぐ幸福の下でが見たいのですが、友達申請してもよろしいでしょうか? (2023年1月31日 23時) (レス) id: 4a8c56b8ae (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ふふ | 作成日時:2021年4月20日 16時