照らすために息をしている (ページ30)

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29．心の広さは一人分ページ30

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「あれ、A？」
「え？拓実？」
「えー、めっちゃ久しぶりやん」
「成人式も来てなかったもんね」
「風邪ひいてん」
「あはは、拓実らしいね」

「大学この辺なん？」
「うん、拓実は？」
「高校卒業してこの辺で働いてんねん」

空きコマの一時間半、大学の最寄り駅を一人で歩いているところに声をかけられた。

スーツ姿の同級生ってなんかちょっと不思議な感じがする。

懐かしい笑顔に、ショートカットが好きって言われて髪の毛切ったなとかいつも変な色合いの服着てたとか、話すきっかけが欲しくてアルバム買ったとか、ルールもわかんないのに野球の試合見たとかそんなどうでもいいことを思い出した。

中三の頃に半年付き合った。初めての彼氏。

付き合い自体は短かったし大した思い出もないのに、
どうして初めてってだけでちょっと特別な気持ちになるんだろう。

「俺たち、なんで別れたんやったけ？」
「なに急に」
「いやなんでやろなーって思っただけやけど」
「そもそも付き合ってたって言うほどじゃないよね」
「…せやな」
「うん、中学の頃だし」

「あ！今日俺18時くらいに仕事終わんねんけど、久々やし、飯でもどう？」
「え～緊張しちゃうな」
「めっちゃ美味しいたこ焼きとハイボールのお店があんねん」

大人になっても変わらないな、拓実は。

最近気づいたけど私って笑顔が可愛い人に弱いのかもしれない。

タイミングよく振動するスマホ。
今日めっちゃ天気よくてきもちいい！と送られてきたメッセージ。

純喜くんはいつも優しくて何でもないことで連絡してくれるから不安になったりしない。

みんなに優しいけど、私にだけ特別に優しい人。

一番大事で、今好きな人。

「A？どうする？駅前とかに待ち合わせでええかな」

「ごめん、やっぱやめとく」
「えー、なんでよ」

「私さ、拓実の人懐っこいところが好きだったけど、そこが嫌になって別れたんだよ」

そう伝えると拓実は自分の頭をくしゃっと撫でて苦笑いをした。

またねと手を振って別れようとすると
「今度みんなで集まろう！景瑚とか元気かな！」と言う拓実に

「行けたら行く」と返事をして歩き出す。

「それ絶対来ないやつやん！」と後ろから大きな声が聞こえた。

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