8話 ページ8
.
午後10時を回り、平日でも騒がしい飲み屋街をコネシマくんととぼとぼ歩く。
並んで駅を目指して歩きつつ、特有のにおいと生ぬるい温度の風を頬に受け、ほろ酔いの頭を更にぼんやりとさせてゆく。
隣を見ればコネシマくんは携帯に釘付けで､次から次へと話題を持ちだしては話しかける鬱くんとは対極だなと感じた。
いや、嘘だった。別に鬱くんは、相手が私だったらそこまで熱心に話しかけてくることも無い。学生時代にそういう光景をよく目にしていたというだけ。
器用に片手で携帯を操作していたコネシマくんは、ふと顔を上げる。
上げた顔は私の方を向いて、何か言いたげたその顔に首を傾げた。
「……いやー、お前が熱心に彼氏でも探しとれば誘ってんけど」
「なに？合コン？」
「せや。俺もだるいねんけど、なんならお前も道ずれにしてやろかなと思って」
なんなら付き合っとる振りでもしとくか？と言った彼は思った以上に酔っていた。
結構です、とお断りを入れたけれど、合コンに関しては別に断る理由もない。きっとコネシマくんも断腸の思いで参加を決めるくらい、人選集めに困っているのだろうから。
「あーあ！今度こそ真面目で誠実な男見つけよっと」
「ふと思ってんけど、お前が真面目で誠実な男をクズに変えとるってことないよな？」
真剣な面持ちで呟かれたそれにはたと立ち止まる。
確かに、歴代の彼氏は一様に最初はクズの片鱗を隠していると思っていたけれど。
もしかして、私がその内なるクズの部分を引き出しているとしたら。なんやかんやと甘く許してしまうこの性格が齎す特性だとしたら。
「……え、待って、無いとも言えない……」
「ぶはは！いやこれあるよな！？お前やん、原因！」
あ、大先生に関しては根がアレやからお前のせいとちゃうで、と今更クソほどの慰めにもならないことを言われ頭を抱えた。
なんてこった、誰とも付き合えないじゃないか、と出だしからつまづいた私に含み笑いを滲ませつつコネシマくんは言う。
「せやから、言うとるやん。大先生と付き合えば万事解決やって」
アイツはもう出来上がっとるからお前がわざわざ変えたる必要も無いで？と笑えない事を言うその顔から目を逸らした。
私の好きなタイプを履き違えないで欲しい。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 835人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
赤月セレン(プロフ) - コメント失礼します。物凄くお話にのめり込んで一気に読んでしまいました…とても良くてもう好きです（笑）tnさんの方の小説も楽しみに読ませて頂きますね。素敵なお話をありがとうございます、更新お疲れ様でした。 (2021年3月6日 22時) (
レス) id: f86cb701a2 (このIDを非表示/違反報告)
宙(プロフ) - ずきゅん (2020年8月28日 1時) (レス) id: a1083db659 (このIDを非表示/違反報告)
おいちこ(プロフ) - 完結おめでとうございます＆ありがとうございますっ！！凄い、素敵でした...2人が幸せに結ばれて、私も幸せですぅ...ニヤニヤ止まんなかったですぅ...新作も読ませていただきますぅぅ...!!!!更新、頑張ってください！！ (2020年4月25日 13時) (レス) id: 5a28085a2a (このIDを非表示/違反報告)
やち(プロフ) - 完結おめでとうございます！生活感のある日常に散りばめられたもどかしさと時々挿まれるドキッとする描写のバランスがたまらず、更新のたびにとても楽しく読ませていただきました。ゆららさんのsyp君がまた素敵で転がるほど好きでした…！次回作も楽しみにしています！ (2020年4月25日 6時) (レス) id: 6f58a85157 (このIDを非表示/違反報告)
椿(プロフ) - かげでこそこそと見させて頂いておりました。なんとも言えない大人のもどかしさがまた純愛のようなものが感じられてとても良い作品でした。完結おめでとうございます。 (2020年4月25日 2時) (レス) id: bbf23e1c65 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ゆらら
| 作成日時：2020年3月22日 1時
