18話 ページ18
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慣れには良い慣れと悪い慣れがあるけれど、ドライヤーで女の髪を乾かす手つきが慣れているのは明らかに後者であると思った。
皮肉な程に効率よく丁寧に滑る鬱くんの手つきに私は内心穏やかじゃない。一体その手で何種類もの髪を乾かしてきたのだろう、と余計なことを考えてしまうせいで。
「今怒っとるやろ」
「うわ、なんで分かるの？」
「伝わんねん。すごいやろ」
リビングのソファの上、鏡も何もないままに言い当てられたぶすくれた顔に私はますます不服なわけだけど。
いつもそうだった。私だって鬱くんとは長い付き合いだけど、それはまた鬱くんだって同じなのだ。
「やっぱAはええなぁ、分かりやすくて｣
「違うから。歴史の長さが物言ってるだけだから」
「せやろか？シッマでもわかると思うけど｣
それはない、と呟いて小さく息を吐く。
私の微細な変化にも目敏く気づくのは鬱くんだけだし、それを一瞬のうちになかったことにしてしまうのもまた鬱くんだけだった。
ダメだった、私は。鬱くんが絡むと途端に弱いのだ。少なくとも今、すっかり乾いた髪に意味無く指を通す彼を咎めることをしないくらいには。
前にパラ、と下がる髪を引き寄せ後ろ髪とまとめた鬱くんは、それを片側にひとまとめに退かす。
そして、不意に肩にズシッと感じる重み。
「ちょ……なに、」
「……んー、なんやと思う？」
それ前も聞いた、と突っ込む余裕などなかった。
退けた髪と逆側の肩口にグリ、と頭を押し付けた鬱くん。顕にされた首筋に彼の柔らかな髪が触れて、擽ったさに身をよじった。
「あー、また逃げようとしとる。悪い子」
「し、てない」
いや、むしろするべき？とぐるぐると回る思考はグチャグチャで、この状況で私が取るべき適切な行動が分からない。
その結果、私は鬱くんの意味不明な行動を黙って受け入れるという体勢を取っているわけだけど。
でも、私たちはこんな風に意味無く触れたり意味無く体温を共有するような間柄では無い。
故に、少々行き過ぎた鬱くんの行為に私は心臓が跳ね上がっていたし、固まった身体は石のように動かなかった。
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赤月セレン(プロフ) - コメント失礼します。物凄くお話にのめり込んで一気に読んでしまいました…とても良くてもう好きです（笑）tnさんの方の小説も楽しみに読ませて頂きますね。素敵なお話をありがとうございます、更新お疲れ様でした。 (2021年3月6日 22時) (
レス) id: f86cb701a2 (このIDを非表示/違反報告)
宙(プロフ) - ずきゅん (2020年8月28日 1時) (レス) id: a1083db659 (このIDを非表示/違反報告)
おいちこ(プロフ) - 完結おめでとうございます＆ありがとうございますっ！！凄い、素敵でした...2人が幸せに結ばれて、私も幸せですぅ...ニヤニヤ止まんなかったですぅ...新作も読ませていただきますぅぅ...!!!!更新、頑張ってください！！ (2020年4月25日 13時) (レス) id: 5a28085a2a (このIDを非表示/違反報告)
やち(プロフ) - 完結おめでとうございます！生活感のある日常に散りばめられたもどかしさと時々挿まれるドキッとする描写のバランスがたまらず、更新のたびにとても楽しく読ませていただきました。ゆららさんのsyp君がまた素敵で転がるほど好きでした…！次回作も楽しみにしています！ (2020年4月25日 6時) (レス) id: 6f58a85157 (このIDを非表示/違反報告)
椿(プロフ) - かげでこそこそと見させて頂いておりました。なんとも言えない大人のもどかしさがまた純愛のようなものが感じられてとても良い作品でした。完結おめでとうございます。 (2020年4月25日 2時) (レス) id: bbf23e1c65 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ゆらら
| 作成日時：2020年3月22日 1時
