34話 ページ35
.
蛍光灯の寒々しい光だけが照らす部屋の中、ぽつんと1人取り残された私はズルズルとその場にしゃがみこんでいた。
念の為鍵を探してみたものの、当然ながら見当たらない。「一生そこにいれば？」なんて先輩の声が蘇りグッと拳を握った。
この部屋は本当に人通りの少ない場所に位置していて、それこそ資料室に用事があるような人しか訪れないくらいだった。事実先程先輩たちが去ってからは人の気配のひとつもなく、誰かに助けを求めることすら出来そうにない。
ポケットの中の硬い感触に手を伸ばそうか、いよいよ最後の手段が頭をよぎる。
この間携帯を持ち出された件以来、私はずっと携帯を持ち歩いていた。今日も例に違わずそれはポケットの中にいて、その気になればいつでも外と連絡を取ることは可能だった。
でもそれを躊躇していたのは、当然助けを求められる人がいないから。
連絡先を交換するほど仲のいい人がいないのはもちろんのこと、私を助けてくれるような人もこの会社にはいないに等しい。
握りしめた携帯が手の中で震え、反射的に画面を確認すれば、『まだ？俺もう終わった』『どこまでサボりにいってんの？』と軽快にポンポンと2つ受信したメッセージ。
差出人は案の定ゾムくんで、何も返せずそっと電源を落とした。
ここでゾムくんに連絡すれば、ゾムくんはきっと来てくれると思う。けれどどうしてこんな状況になったのか聞かれた時、例によって私は何も説明できないのだ。
言えない想いが募る度、隠し事が増えてゆく。嫌われたくないはずなのに、嫌われないために彼に嘘をつき続ける私。
やりきれない。どうしようもない。でも、ゾムくんのせいで嫌がらせを受けてる、なんて言えない。
そう考えれば、私はもう自然に行動を取っていた。
私が呼べば来てくれる、助けを求めれば手を差し伸べてくれる、余計な嘘をつく必要のないその人の番号を呼び起こし、そっと携帯を耳に当てた。
『_______どうしたん、Aちゃん』
「鬱先輩………助けて、ください」
久しぶりに耳に流れ込んできた変わらないその優しい声は、『すぐ行くから大丈夫やで』と荒んだ私の心をそっと撫でた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1022人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ぴざる2号(プロフ) - 泣いた…やばい…うわぁぁ…好き…（語彙力皆無） (2021年3月31日 14時) (
レス) id: fa56edbecd (このIDを非表示/違反報告)
ことこ(ドS娘)(プロフ) - あーーーーーーーーーーdi先生ーーーーーーー(震え)って現在なってます。うううううう推しはzmさんなのにううううううこんなに私を惑わすなんて……罪ですねっ！！(オールで小説を読んでた馬鹿野郎より) (2020年8月15日 8時) (レス) id: 0a70119f62 (このIDを非表示/違反報告)
林檎(プロフ) - えぇ、、、無理、、、好きです。もう最高でした！神作品ですね！というかtn落ち多いしzm落ちのこの作品もむっちゃよくてtnzmが最推しな我歓喜 (2020年5月26日 2時) (レス) id: d1841ceef2 (このIDを非表示/違反報告)
零(プロフ) - あと1週間はこのお話のエモさを思い出しては悶えると思います。本当に素敵な作品をありがとうございました。次回作も応援しています！長々とｺﾒﾝﾄ失礼しました。 (2020年3月6日 9時) (レス) id: e6da1803b4 (このIDを非表示/違反報告)
零(プロフ) - 変わっていく気持ちが、さらにutさんと2人は違うということを強調されていて、報われないutさんに心が苦しいです。でも2人がﾊｯﾋﾟｰｴﾝﾄﾞを迎えられて本当によかったです。zmさんはこのお話の主人公でしたが、utさんこそ間違いなくヒーローだったと思います。 (2020年3月6日 9時) (レス) id: e6da1803b4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ゆらら
| 作成日時：2020年2月11日 22時
