11話 ページ12
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俯く私の頭にふわりと暖かい感覚。
ポンポンと私の頭を撫でた鬱先輩は、困ったように微笑んでいた。
「そんな顔しんといてや。ごめんな、いじめすぎた」
そう言う鬱先輩の瞳にさっきの怒りの面影は無く、いつもの鬱先輩にフッと安心している自分を感じて胸の奥がモヤッとした。
「もう………心臓に悪いです、」
否定とも肯定とも受け取れるふわふわとした言葉を紡いでチラリとその顔を伺う。
もし本当のことがバレてしまったら、きっとゾムくんは困るだろうから。
だから、上手く誤魔化さなきゃいけなかった。
変なこと言わないでください、私たちちゃんと仲良しです、って、一言言えばいいだけだった。
「Aちゃん…どうしたん?」
喉元まで出かかったその言い訳は、口から出る前に押し戻った。
開かなかったのだ。重たくへばりついた唇は、私に絡む優しい眼差しを前にして嘘をつく事を拒否していた。
嘘で塗り固めた私の身体に、鬱先輩の暖かさは苦しかったのだ。
「、いいんです。心配かけてすみません、実は、最近ちょっと喧嘩してただけで」
「…ふーん、そうやったん?」
「はい。だから、もう…」
放っといてください。
そう言った私に、目を見開き顔を歪めた鬱先輩。
「……Aちゃん、わかってへんやろ」
「なにがですか」
「俺がなんで嫌がらせのこと知ってたかとか、分かれへんねやろ」
吐き出された言葉に、小さく頷く。
確かにそれは不思議だった。いくら鬱先輩がフレンドリーに誰にでも平等に優しさを振りまく人だといえど、他部署のゴタゴタにまで精通しているものだろうか。
考え込む私に少し笑った気配がして不意に顔を上げれば、再び頭に乗った手。
そしてそれは髪を滑り、そっと頬に添えられた。
「そんなん、俺がAちゃんのことよく見とるからやで」
「……よく見てる、って?」
「うん。ずっと見とるで。ゾムなんかより、ずっと」
この意味分かる?と覗き込まれた瞳はとても冗談を言っているようには見えず。
まるで予想もしていなかった展開に目を白黒させている私に追い打ちをかけるよう、『Aちゃんのこと、ちゃんと好きやねん』と真剣な鬱先輩の声が頭に響いた。
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ぴざる2号(プロフ) - 泣いた…やばい…うわぁぁ…好き…(語彙力皆無) (2021年3月31日 14時) (レス) id: fa56edbecd (このIDを非表示/違反報告)
ことこ(ドS娘)(プロフ) - あーーーーーーーーーーdi先生ーーーーーーー(震え)って現在なってます。うううううう推しはzmさんなのにううううううこんなに私を惑わすなんて……罪ですねっ!!(オールで小説を読んでた馬鹿野郎より) (2020年8月15日 8時) (レス) id: 0a70119f62 (このIDを非表示/違反報告)
林檎(プロフ) - えぇ、、、無理、、、好きです。もう最高でした!神作品ですね!というかtn落ち多いしzm落ちのこの作品もむっちゃよくてtnzmが最推しな我歓喜 (2020年5月26日 2時) (レス) id: d1841ceef2 (このIDを非表示/違反報告)
零(プロフ) - あと1週間はこのお話のエモさを思い出しては悶えると思います。本当に素敵な作品をありがとうございました。次回作も応援しています!長々とコメント失礼しました。 (2020年3月6日 9時) (レス) id: e6da1803b4 (このIDを非表示/違反報告)
零(プロフ) - 変わっていく気持ちが、さらにutさんと2人は違うということを強調されていて、報われないutさんに心が苦しいです。でも2人がハッピーエンドを迎えられて本当によかったです。zmさんはこのお話の主人公でしたが、utさんこそ間違いなくヒーローだったと思います。 (2020年3月6日 9時) (レス) id: e6da1803b4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆらら | 作成日時:2020年2月11日 22時