「獅子狩り/第一話」 ページ19
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――――――バツンッ
世界が停止する。
「なに?停電?」
しんと静まり返る舞台。
さっきまで順調に進んでいた筈だ。
僕たちはValkyrieのユニット衣装に着替えいつも通り。いや、いつも以上に完璧な演技をしていた。
ただ違ったのは観客の反応、すぐに受け入れられないのは分かっていたけど、実際の反応はそれ以上だった。僕たちの演技を見るどころか、早く終われって、苦痛でしかないってそんな空気が僕達を排斥するように押し寄せていた。
もはや受け入れられるどころの話じゃない。
…それだけだった筈なのに。
何が起こったのか3人を見渡すと、僕を含め、皆唖然としていた。
沈黙。
そこで僕はようやく理解した。
…止まったんだ、音が。
先程まで痛い視線を向けていた観客も、突然のことに動揺しているようだった。
少しずつ、ぼそぼそと何かを話す音が聞こえてくる。それにつられるように徐々に声が増えていき、観客のざわめきが大きくなっていく。
僕はどうすればいい…?
指示を求めようにもお師さんは依然として動かない。
尚も不快な羽虫のように人の声が響いている。
その中で誰かがつぶやいた。
「演出だろ?」
演出…そうだ、歌えばまだ演出だと言い張れる。
無意識な手の震えを抑え、僕は息を吸い込み声を出そうとした。
「……っっ」
…おかしい。
何度も声を出そうとするが、声が喉をつかえて出すことが出来ない。
いつもは出せるのにっ…!!
だんだん僕は焦りを感じ始める。
締め付けられる喉。口内が乾燥しきった嫌な感触に構わず声を出そうと懸命に音を吐く。
ただ、その様子は酸素が足りなくなった魚のように口をパクパクさせているだけの滑稽なものだった。
「…何やってんのあいつ」
「さあ、歌おうとしてんじゃないの?」
精神的負荷で胃から嫌なものが込み上げてくるのを唾液なしに無理やり飲み込む。そして再度声を上げようと口を開いた。
「―――**********。」
…………………。
……………………………。
「……………ぇ?」
開いたままの口から誰にも届かない、小さく掠れた声が漏れた。
…誰が言ったのかはわからない。処理が追いつかず言葉まではっきりと理解できない。しかし意味だけは不幸にもすぐに理解できてしまった。
…きっと状況が悪かったんだ。
限界まで張り詰めていた僕の心はその一言で簡単にも砕けてしまった……………。
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みん。(プロフ) - 朱憑(さぶ)さん» コメント下さりありがとうございます!!好き、何周もしているとのこと、感無量でございます!!!そして御指摘の通り仁兎です!ハチャメチャに誤字しておりました!すぐに修正しました気づいてお教えて下さりありがとうございます!!! (2023年2月21日 0時) (レス) id: febc79156f (このIDを非表示/違反報告)
朱憑(さぶ) - この作品好き過ぎて何周もしています笑 ところでなのですが…なずな君の苗字。二兎ではなく仁兎だと思います…! (2023年2月19日 16時) (レス) @page14 id: 369ab47d46 (このIDを非表示/違反報告)
みん。(プロフ) - おかゆさん» コメント下さりありがとうございます!この作品がおかゆ様の目に止まったこと、そしてページを開いてお読み下さったこと、嬉しい気持ちと感謝で今胸が満たされております!おかゆ様の心にジャストミートできて良かったです!! (2022年12月27日 23時) (レス) id: febc79156f (このIDを非表示/違反報告)
おかゆ(プロフ) - Valkyrieの作品を探していたらたまたま見つけ読んでみました。雰囲気などがドストライクでした。好きです。これからも更新頑張って下さい。 (2022年12月27日 22時) (レス) id: 4ef80cb4cb (このIDを非表示/違反報告)
みん。(プロフ) - 百華夜さん» ぬわぁー!まさかコメントを戴けるとは思っておりませんでした!!お読みいただきありがとうございます、そして励ましのお言葉心から感謝致します!! (2022年12月27日 16時) (レス) id: febc79156f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みん。 | 作成日時:2022年11月24日 1時