理想怪奇「死竜魔」 (ページ6)

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序章　【招かれざる客】ページ6

親父から聞いたことがある。
　この世界『理想の都』を存続させる3つの宝玉にはそれぞれ『力』があるらしい。
　『夢の珠』は所有者の願いを代償を伴う上で叶え、『想の珠』は対価を用意することでどんなものも創造できる。そしてもう一つの珠、『名前が分かっていない珠』は世界と世界を繋ぎ合わせ、自由に行き来できる力を持つとかなんとか。それをどうして親父が知っているのかは分からない。聞く前にぽっくり逝ってしまったから。
　そんな御伽話に出てきそうな宝が、今この目の前ににある。夢の珠が厳重な封印を施され鎮座している祠の中で眠っているのだ。

「……やっべぇよな」
「最近聞く物騒なうわさが？」
「違う違う。祠の中身の話。
　って、『うわさ』っていうとアレか？最近、若い人間や妖怪が次々と行方不明になってるっていうアレ」
「そう、ソレよ。
　強い弱い関係なく、色んな種族の人たちが次々と姿を消している。それも決まって若い者たち。ちょうど私たちのような好青年又は少女くらい。人間も絡んでいるとなると私も黙っていられない訳だけれど……」
「なーんか、嫌な雰囲気だよな」

　ここ最近、『若者が次々と姿を消している』という噂で世間は大盛り上がりだ。悪い意味で。
　はじめこそ、ただの遭難だの行方不明だのとあまり注目されていなかったが、だんだん行方不明になった人数が増えていくと住人たちはいよいよ焦り始めたという訳だ。

「……何か、悪いことが起きなければ良いのだけれど」
「どうせただの目立ちたがりがやる嫌がらせだろ。しょうもないこと企んでるってくらいさ。いつか収束するだろうし、そんな警戒しなくても良いんじゃないか？」
「次があんたの番だったらいいのに」
「何不吉なこと言ってるの！？
　……まぁでも、俺は普通の人間以上に強いからな、自己防衛くらいは出来るさ。
　落ち葉集め終わったぜ。ちりとりくれー」
「はい、ちりとり置いとくわよ」
「さんきゅー」

　持ってきてくれたちりとりを手に持ち、落ち葉をかき集める。これでも俺は掃除が好きな方だ。そして夢乃はというと、呑気に縁側で緑茶と煎餅を嗜んでいる。

「……人使い荒いやつ」
「何か言ったかしら？」
「なーんにもー」

　いつもの光景。いつも通りのくだらない会話。調子が良くなってきて、ついつい鼻歌まじりに掃除をしてしまうくらいの平凡である。