終章【日常の帰還】 ページ41
「……俺の様な、ただの召使の分際で、お嬢に申し建するのもおこがましいとは思いますが……、俺は、その……」
「ああ、ルナの意見を聞かせてくれ」
「良いわよー、思い切ってぶち撒けときなさい。ほらほら」
「……お嬢が居なくなれば、竜人族の大きな痛手となります。統率者がいなければ我々は……俺は、どうしたらいいのか分からなくなる。お嬢、貴方は俺の指標です。生きる意味そのものなのです。きっと弟様もそのように思っている筈。
だから……俺は、貴方が命を投げ出すというのならば俺がこの命で償いの糧になります」
「どうしてそうなるのよ……」
夢乃は頭を抱える。しかしアップルはルナディの発言に目を見開き、そして微笑する。
「宜しい。ならばお前の指標となる為に、もう少しだけ生きていよう。それに、せっかく生き返ったのに私が居なくちゃ意味ないものね」
「全く、竜人族ってのはすぐ命を投げ捨てる」
「花坂、夢の珠の力のことだけど君はどうするつもりなの?」
「どうもしないわよ。今までずーっと眠ってたところを起こされたんだから、今度は満足するまで寝かせれば良いじゃないの」
「成る程、人間は面白い発想をするのね」
「弱いからこそのユーモア溢れる人生を謳歌していたいのよ。あくまで私はね」
九月十六日、正午。昨日とは違い、今日はいつも通りの時間が過ぎていく。秋風が彼女たちの髪を揺らし、風は言葉を運んでくる。
人間が暮らす街では大騒ぎ。迷いの森林に教会が発見されてから、人間の中に神竜教会へと足を運ぶ変わり者たちが現れる。妖怪たちに驚かされながらも教会にたどり着いた者は、シスターの教えを受けて信者となることもある。なおその際にもらえる信者のバッジは高価なもので、それを貰って売るためだけに信者になろうとする者も居るとか。
神竜教会の墓地は綺麗になっていた。暇を持て余したルナディとアラタにお願いされてきた想魔がアラタの監督の元で僅か3日で済ませたらしい。
今回の怪奇で犠牲となった者たちの遺体は消失していた。アップル曰く、「ブルーの体となっている」。蘇生の魔術とは、いつの時代も不思議で不気味なものなのだ。
そして、風は噂を運ぶ。
『今回の怪奇でコテンパンにやられた竜人族の女帝はすっかり理想の都に馴染んだようで、スローライフを送っているらしい』と。
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作者名:ミンミンゼミ31039 | 作成日時:2018年12月8日 22時