出発 ページ26
Aさんとベッドの近くで寝てるきなこを起こさないようにそっとベッドから抜き出た。つもりだったんだけど、きなこが起きちゃった。
「起こしちゃってごめんねきなこ。まだ起きる時間じゃないよ」
小声で言うとちゃんと理解したのか、また伏せて目を閉じるきなこ。相変わらず頭良いよな、お前。
極力音を立てないように準備して、テーブルの上に書き置きを残してから荷物を持った。よし。
靴を履いて鍵を開けようとした時、背後で物音がした。物音の正体は眠そうに目を擦りながらフラフラな足取りで歩くAさんだった。ちょっ、何で起きてるの！？
そう思ったけど、Aさんに寄り添うようにいるきなこがAさんを起こした犯人だな。さっき寝たじゃん…あれもしかして寝たフリ？え、犬ってそんな事できんの？？
私悪くありませんって感じでそっぽを向いたきなこに呆れてるとAさんが俺の服を引っ張る。俺の視線が自分に向いたのを確認してから彼女は手を動かした。
［いってらっしゃい］
Aさんはふにゃんって笑いながら手話をする。ねぇ、それを言うためだけに起きてきたの？もう、ほんとにさぁ……。
抱き寄せて、最後に力一杯抱き締めた。一瞬にしないといつまでも離したくなくなっちゃうからすぐに離した。それで俺も手話をする。
［いってきます］
こういうやりとり、初めてじゃないか？Aさんの家から直接動画の撮影に行く事ってなかったし。ヤバい、嬉しすぎる。何かこれだけで頑張れるわ。
最後にいってきますのキスをすると完全に覚醒したのか、顔を真っ赤にして俺をぐいぐい押してくる。ごめんって。
「……じゃあ、またねAさん」
玄関を開けて、手を振れば振り返してくれた。扉が閉まりきる寸前までAさんを見た。バタンって閉まってから合鍵を使って鍵をかける。
真冬のこの時間は当たり前だけど真っ暗で。吐く息が白いくらいの寒さなのに、俺の心はポカポカしてた。
「あ〜……ヤバい、すっごいニヤけてる」
俺のためにこんな朝早い時間に起きてくれた。わざわざ見送ってくれた。
たったそれだけだと思われるかもしれないけど、俺はそれが死ぬ程嬉しい。今度は俺もAさんに“いってらっしゃい”って言いたいなぁ。
出発する時が憂鬱だった筈なのに、今はこんなに浮かれてる。俺って単純だ。
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Ria(プロフ) - やばいです…感動ものです……ｸﾞｽｯ、泣いちゃいました…。素敵な作品をありがとうございます…！！ (2020年3月22日 21時) (
レス) id: 33e95337be (このIDを非表示/違反報告)
瀧(プロフ) - 善処さん» ありがとうございます！めっちゃ嬉しいです！(*≧∀≦*) (2019年10月29日 10時) (レス) id: 6f454b9d63 (このIDを非表示/違反報告)
瀧(プロフ) - wwwさん» やっぱりそう思いますよね…分かります。 (2019年10月29日 10時) (レス) id: 6f454b9d63 (このIDを非表示/違反報告)
瀧(プロフ) - danchanさん» 三宅さんが手話ができると知ったので、これは出すしかないと思い、出させていただきました！ (2019年10月29日 10時) (レス) id: 6f454b9d63 (このIDを非表示/違反報告)
瀧(プロフ) - ゆりりんさん» 作者も書いてて泣きそうになってました…(´；ω；`) (2019年10月29日 10時) (レス) id: 6f454b9d63 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：瀧 | 作成日時：2019年8月9日 0時
