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車の中で隠れてキスをしよう(inar) ページ14

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｢つめてぇ！｣

｢はは、大ちゃんびしょびしょじゃん｣

｢伊野ちゃんだって、つーかさみぃ！｣

夜の校舎に忍び込んで、プールに飛び込んだのは
23時過ぎ。


すっかり秋の匂いの夜空には満月が見える。


｢まぁもう夏も終わりだからね…｣

｢…ねぇ、バレたら警察、かな俺ら｣

｢さぁ、どうだろうね？
2人でなら俺はどこでもいいけど？｣

｢まーたそんな適当なこと言って｣

｢大丈夫、大ちゃんのせいにするから｣

｢え、それはひでぇよ伊野ちゃん…｣



一個違いの俺と伊野ちゃんの年の差は
縮まりそうで縮まらない。

学校に忍び込もう、
そう言ったのは伊野ちゃんで


俺の高校に1度来てみたかったとか
そんな理由を並べては俺を優しい顔で見て
連れてって。なんて言われたら
恋人の押しに弱い俺はこうすることしか出来なかった。



最近注目してもらえることが増えて
仕事の量もうんと増えた。


ドラマにバラエティ、俺だけじゃない
伊野ちゃんだってひっぱりだこだ。


｢あー、なんかゆっくりプールとか久しぶり｣



そう言いながら笑う伊野ちゃんは
大人っぽい綺麗な笑顔で


なんだか俺の心の中は落ち着かない。


いつまでもずっと夏休みが良いと思ってた
あの子どもの頃は今じゃすっかり影をなくし
大人になりたくない。と毎日にしがみつく


これ以上大人になったら伊野ちゃんが俺から
もっと離れていきそうで、
もっと素敵になりそうで、


｢…大ちゃん？どうしたの？｣

｢え、いや、その、｣

｢泣いてる？｣

｢ちが、｣

｢もぉ、大ちゃん。俺は大ちゃんのことは誰よりもわかるつもりだし、誰よりも見てるんだから｣

バシャっと音を立てた水
少し冷えた伊野ちゃんの体
抱きしめられて早くなる鼓動


こんなことされても、いつか伊野ちゃんが
俺の隣からいなくなることが怖いなんて

毎日毎日色んなものに出会う伊野ちゃんの心が変わらないとは言いきれない。

俺なんかよりうんと可愛いくて美人な女優さんと映画にもドラマにもでて、
綺麗なアナウンサーさんと朝の番組に出て


もうこんなに辛いならいっそのこと、
そう思って口を開いて

｢いのちゃ、｣

名前を呼び終わる前に

血色の良い色から紫色に変わった少し冷えた唇が俺の唇に重なって

｢…余計なこと考えなくていいから｣

そう、言われた

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