どこぞの怪盗、毎晩来るけどなんなんですか？

少しでも優位に立つ ページ39

「…貴方はずっと、私の大切な人です」

『…why？？』



貴方はずっとあの頃から変わっていなかった。

貴方を見つけたあの瞬間、もし違う人間になってしまっていたら。
ずっと思っていたことは、貴方と喋っているうちに溶けて消えていった。


ころころと面白いくらいに変わっていく表情が幼くて。
紡いでいく言葉は棘があるように思えて実は柔らかくて。

親に見つかって座らせられて横に並んだ時、(プロポーズしたらこんな風に挨拶いったりすんのかなぁ)なんて一人浮かれていたりした。

誰にも触れさせたくなくて、ずっと閉じ込めていたいくらいに愛おしいのに。



「…何でもないですよ」

『？ とりあえず、なんでもいいから早く降ろしてくれません…？』

「嫌です」



『え゛っ』と目を見開いてこっちを見上げてくる貴方は可愛い。
腕の中に閉じ込めているから、ぐっと距離が近づいて、キツすぎない程度の花の匂いが鼻腔をくすぐる。


あの名探偵に抜かされているのが癪に触るが、確実に距離は近づいていっている。




『あっねえ家見えた！ちょっ、本当に降ろしやがれ、明日外したらぶっ飛ばされるレベルの用事抱えてんだよ。友人の子供に殺されんだよ』

「…しょうがないですね」




そうだった、明日は…実質コイツとデート。あの坊主には悪いが、子供にできることなんかたかが知れてる。


いつの間にか元の場所に戻ってきていたらしいので、名残惜しいが、ベランダに降り立った。



『あー…死ぬかと思ったぁあ…』

「貴方との夜景デート、とても楽しかったですよ」

『…いや、あんまデートらしいことしてなくね…？？』




“同級生”“幼馴染”


この2つをフル活用できるポジションなんかそうそう無い。

…でも、アイツの姿というのがまた癪に触る。

―――だから、




「じゃあ…最後にデートらしいこと、しましょうか。」

『は？急になに言―――』





重ねた唇からじんわりと伝わってきた貴方の熱。
なにが起きたのかわからないという目。


すっと唇を離せば、パクパクと口を動かして動けない貴方に、俺はまた仮面を被って言葉を吐く。




「…ではまた、月が輝く夜に会いましょう。」





あの名探偵にはできないようなことをして、俺は差をつける。

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