家族になって二十一日目 ページ43
『もう彼処には、行きたくない』
翌朝中也に連れられて探偵社に向かう直前、彼女は突然思い詰めたように呟く。この時刻はいつもならもう家を出ている頃だ。
『中也さんやみんなは、すごくすごく優しいのに。いい人たちなのに。あんな、何も知らない人が、知ったような口で。ほんと最低だよ...』
Aが何故これほどまでに塞ぎ込んでいるのか、事の経緯は昨夜立原から聞いていた。こんなにもヒートアップしてしまっているのはきっと、腹の傷の要因がフラッシュバックして、自然と気持ちが悪い方向に流れてしまっているせいもあるだろう。
玄関に向いていた足を彼女の方へと直し、あの日少女を拾ったときのような渋い顔をする。その視線がかち合うことはない。
「A、俺らを信頼してくれているのはよく分かった。それは素直に嬉しい。けどな、手前は矢張り何も分かっちゃいねェ」
そう言うと益々顔を顰めて、椅子の上に体育座りをした状態で、現実から目を背けるように膝の上に顔を埋めた。
「前にも言ったはずだ。俺たちは世間様でいう犯罪集団だと。例えるなら、俺たちポートマフィアが悪役で、探偵社が正義の味方だ。この事実は手前が双方をどう思おうが関係なく、変わらない。この世の大抵のことは大多数の意見で決まるんだ。だから俺たちは、悪だ」
『そんな、違うよ。だって中也さんたちは、私の命の恩人で、家族で...』
「A」
『いや、違う』
「A!」
『! わ、私...そんなに聞き分け良くないよ』
俯いて、今にも泣き出しそうな震え声で呟く少女に眉尻を落とす。何言ってンだ、お前は聞き分けが良すぎるくらいだろうが。
「手前は、優しいな」
はっと顔を上げた。
「それでもな、言ったろ。世の中の大半は多数決で決まる。どれだけの名演説も筋の通った論説も、多勢が鼻で笑えば終いなんだ。理想も現実的ではないからとぶち壊されたりする。だから手前は、俺たちを優しいと言ったように、正しくないと思うことには声を上げろ。でけえ声に負けるな。流される柔な人間になるな。理不尽もある、不条理もある、そういう世の中だ。だが声を上げることでごく稀に、多数決の結果がひっくり返ることだってあるんだ。手前はそうやって、手前の正義を見つけていけ」
でも今回だけは、今回だけは俺の正義を受け入れてくれ。
手前に真の善悪を説きたい俺の正義と意思を。
じゃあもう仕事に出るから、今日は家でのんびり絵本でも読んでろよ。
そう言って、背を向けた。
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苗代(プロフ) - 彩花さん» コメントありがとうございます。これからも頑張って更新していくので、ぜひご贔屓に。 (2018年7月18日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
彩花 - とっても面白くて一気読みしてしまいました!!!これからも頑張ってください!と (2018年7月17日 15時) (レス) id: 2058922f9b (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 苗代さん» よろしくお願いしますm(__)m頑張ってくださいq(^-^q) (2018年7月13日 18時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
苗代(プロフ) - #祭鼓*@harigaya mako*さん» 初めまして、作品を好きだと言って頂けてとても嬉しいです。これからも出来るだけ頑張って更新を続けていくので、これからもよろしくお願い致します。 (2018年7月12日 23時) (レス) id: 4044429dac (このIDを非表示/違反報告)
#祭鼓*@harigaya mako*(プロフ) - 初めまして(*^^*)こんにちは(・∀・)ノこの作品本当に大好きです(*≧∀≦*)更新頑張ってくださいq(^-^q)応援してます(σ≧▽≦)σ (2018年7月12日 23時) (レス) id: 509492d3f2 (このIDを非表示/違反報告)
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