・84 ページ40
.
「この国の解剖率が上がらないのは何故だと思う？死人に金を使う人間がいないからだ。死体をいくら調べても、生き返らせる事は出来ない」
そう冷たく言葉を放つ先生に、怒りを覚えた。
私達の存在ごと、否定された気がして。
「息子の好きにさせても、ろくな事にはならないんです。私は父親として、息子の将来に責任がある」
今度は私に向き直り、呆れた微笑を浮かべて話す先生に、口を開く。
「息子さんの将来は、貴方が決める事じゃない。彼自身に、選択する自由があるべきです」
私がそう言った瞬間、久部くんや所長が大きく目を見開いた。
先生は私の言葉に鼻で笑うと、「失礼します」と静かにエレベーターに乗り込んで行った。
「ごめん！久部くん！本っ当にごめん！」
その日の夜、久部くんとラボの近くの居酒屋に足を運ぶと、カウンター席に着くなり顔の前で両手を合わせて謝った。
「すごい出しゃばった事を…本当にごめん」
「いや、いいです大丈夫です」
私を落ち着かせるように、久部くんは大きく首を振った。
「うち一族郎党医者なんですよ」と久部くんはぽつりぽつりと、話し始める。
「兄2人は大学病院の医者で、祖父は開業医で。いずれはそこで働く。だから俺も当然医者になるもんだと思ってて。
中3の時、受験勉強に疲れた事があって本当に軽い気持ちで、ふざけて父親に言ったんですよ。俺医者になるのやめたって。
そしたら、なら私の子供じゃないって。
ふざけて言ったのに父親はマジなんですよ。
俺この人の息子でいる為に医者になるのかって思ったら、勉強とか分かんなくなっちゃって
それからずーっと分かんないままですよ」
私は久部くんの話を聞きながら、グラスに注がれたお酒を流し込む。
「だから、Aさんがさっき言ってくれた事すごい嬉しかったです」
柔らかな雰囲気で笑みを浮かべる久部くんに、自然と口角が上がる。
すると、しばらく久部くんが、グラス片手に私を見つめてくる。その瞳がなんとなく熱っぽさを帯びているのは、お酒のせいだろうか。
私が小首を傾げると、慌てたように視線を運ばれてきたつまみに落とす。
「私達には、私達の出来ることをやろう」
私がグラスを高く上げると、久部くんも同じようにグラスを上げて、チリンと甲高い音を立てて乾杯した。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1218人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
青龍 葵(プロフ) - 母親を殺した真犯人は誰なのか…今後の展開、中堂さんと恋人同士になった２人に甘い部分があるのか？とか思いながら更新が待ち遠しいです！ (2018年3月20日 6時) (
レス) id: 7069733e86 (このIDを非表示/違反報告)
Soll(ソル)(プロフ) - 青龍 葵さん» もう最終回ですね〜終わってしまうのが辛い！小説の方もこれから急展開を迎えますので2人の行く末を見守って頂けたらと思います (2018年3月16日 21時) (レス) id: 55764b7fd6 (このIDを非表示/違反報告)
青龍 葵(プロフ) - いよいよ今日でドラマ最終回！結末がどうなるのか気になりますが小説の最後（完結）も気になります。完結まで、まだまだ先かと思いますが無理のない更新で頑張って下さい！ (2018年3月16日 17時) (レス) id: 7069733e86 (このIDを非表示/違反報告)
Soll(ソル)(プロフ) - まるさん» ご指摘ありがとうございます。知識の浅い素人の書く文章ですので、これからもそういった点が出てくると思いますが、少しでも楽しんで頂けるよう努力していきます (2018年3月15日 7時) (レス) id: 55764b7fd6 (このIDを非表示/違反報告)
まる - いつも楽しませて頂いてます！差し出がましいことを申しますが、細菌とウイルスは別物です！気にしないで読むつもりだったのですがどうしても気になってしまいコメントしました (2018年3月15日 2時) (レス) id: 8a313f8dce (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Soll(ソル) | 作者ホームページ：http://ulog.u.nosv.org/home
作成日時：2018年2月18日 19時
