眠り姫は蜂蜜を求める ページ5
目が覚める。何だか酷く目覚めが悪い。
夢見でも悪かったのか、なんて疑問に思いながら、アタシは冷たい海の底から意識を引っ張り寄せて体を起こす。
閉じていた両目を開けようとすれば、焼け付くような痛みを感じて思わずまた閉じてしまった。
「(ああ、そう言えば定期試験で火魔法に当たったんだっけ?)」
じゃあ、ここは保健室か何かかなぁ。辺りに漂うアルコォルの匂いのせいで鼻が可笑しくなりそう。
なんて思考を巡らせていれば、耳を劈く激しい急ブレーキ音が聞こえ、また今度は痛みを伴わないようにゆっくりと目を開ける。
「ッ、え!?」
通路のド真ん中。
ド真ん中に、アタシは粉塵まみれで居た。
……えっちょっと理解が追いつかないけどそれにしてもよく轢き殺されなかったなって過去の自分を褒めたいと同時にこんな所で眠っていた事を怒りたい。
まってまって、本当訳分からないんだけど。なんて思考停止する脳を置き去りにして、取り敢えず、立ち上がって辺りを観察する。
「アタシどんだけ寝てたんだ……暗っ」
提灯の灯りもなく、辺りは嘲笑う口の形のような大きな三日月だけが照らしている。
周辺に建物は、うん。無さそうだ。うざっとおしい位にある神社すら一つも無い。てか本当にここ雪ノ国なのか?とまで考えて、アタシはとある一つの事に気が付いた。
何故か、年中降っている雪が降ってない。
……おかしい。この雪は半分呪いみたいなもので、雪ノ国が生まれた時から今まで、ずっと三千年共にあったのに。
「どこだ、ここ……」
不安に苛まれ、唐突に頭上で咲いていた、夢のようにほの白いしだれ桜が気味悪いものに思える。
いつの間にかしゃん、しゃん、しゃん、と鈴の音が耳の奥でループしていたのにも吐き気がしそうで、ああ、きもちわるい、
【おいで、おいで、ここまでおいで】
蜂蜜みたいに甘くて、蕩けそうなこえ。
気付けばアタシはそれを求めてあるきだしていた。
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西夏(プロフ) - 綺麗な文ですね! (2018年8月11日 13時) (レス) id: 66c6e8cd96 (このIDを非表示/違反報告)
ましら(プロフ) - やはり、うたちゃんの文章は、日本の匠に作られたとても繊細で、太陽の淡い光を受けて佇んでいる硝子ザ細工が如く美しいよ。うたちゃんの文章をありがとう! (2017年1月30日 16時) (レス) id: 512c5a6245 (このIDを非表示/違反報告)
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