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女の本当の名前は ページ8

鬼である少女はAが探していた娘で間違いはなかった
その鬼を拘束するどころか口に枷を嵌める冨岡の背中を見て女は思った

(成程。お館はんが気にかけてほしいと言っても可笑しくないお人や)

水柱であるのならば、その立場から鬼を殺さなければならないのは分かっているであろう
けれど、殺す気配は全くない

微かに目の前の男から滲んで見える苦々しい想いに目が離せない気がする

「……止めないのか」

『止めてほしいんどすか?』

気絶した少年の体を表に向かせながら強い視線を受けつつも少年の顔についた雪を払う
言葉は少ないが、彼の言いたいこともわかる

(うちは本来なら、冨岡はんをお館はんの元に届けな隊律違反で罰せられるやろうなあ)

なんせ鬼滅の名を持つ剣士が今正に鬼を生かそうとしている
額に傷のついた肌に触れながら冨岡をまっすぐ見る

人の心配しとる場合かあんさん。

その心の内に隠れて見える気遣いにへらりと笑った
無邪気にも見える笑顔に虚を突かれたように冨岡が目を見開いたのを女は知らない

『今更何を言うたところで、この子たちを生かすつもりやろう?せやったらうちが止めても意味のないこと』

それに、と冨岡から視線を逸らして未だ気を失う少年の体を持ち上げる
軽いとも重たいとも言えぬ重さと温かさに生きているのだと実感してしまう

口枷を嵌められ眠る妹の横へとそっと優しく寝かしてから少年と鬼の手を握る
健やかに眠る二人には誰にも断ち切れない絆があると感じていた

『この子らには、何か違うもんがあるかもしれへん』

不意に降り続けていた雪が止んだと思えば瞬く間に風に流れて季節外れにもあり得ない桜が舞った

幹もない奇想天外な光景の中、冨岡はこれには驚かなかった
その様子に逆に驚いたAだが、まあいいかと口遊む

子守唄に近しい唄が何を見せたのか。それは手を涙を流す少年にしか分からない
でもきっと辛いものではないのだと彼女を眺める冨岡は気づいていた

「名前は」

彼らの手を離し立ち上がった女へと問う
桜の合間から覗いた形の良い唇がつり上がっていく

振り返った女は笑った
相も変わらず見透かしたような目も寄越して

『巡桜A。これからよろしゅう、冨岡はん』

水柱と舞柱、鬼殺隊最高位の剣士二人が生かした少年と鬼の少女がこの俗世を変えていく渦中の人物となるのを知っていたかどうか

それは二人にしか分からぬことだ

意志不通→←対面



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蜜柑(プロフ) - あいうえおさん» 誤字指摘ありがとうございます…まさか主人公である彼の名前を間違えるとは申し訳ありません…… (2019年6月24日 23時) (レス) id: f7e2178304 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - すいません。「炭次郎」じゃなくて「炭治郎」ですよ。 (2019年6月24日 22時) (レス) id: d4ea0d195c (このIDを非表示/違反報告)
蜜柑(プロフ) - やよいさん» コメントありがとうございます…!やよいさんの作品も閲覧させていただいているので作者様からそう言ってもらえて嬉しいです! (2019年5月20日 17時) (レス) id: f7e2178304 (このIDを非表示/違反報告)
やよい(プロフ) - はあ、、もう面白すぎです。。文才神がかってます。。大好きです。 (2019年5月20日 0時) (レス) id: 7302d83944 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:蜜柑 | 作成日時:2019年5月6日 10時

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