異なる森 ページ31
そこへ踏み入れた途端、何もかもが異質に感じた。比喩ではない、明らかにそこだけが自分達の生きる世界と違う別の場所へと変わっていた
世界から切り離されたみたいだと青年の頭に括られた般若の面が嘲り嗤っているようだ
「随分と時間がかかってしまったか……」
同調しているのか片目だけが瑠璃色の鴉が一鳴き
腕に器用に停まっていた鴉を飛び立たせ青年が静かに自身の得物へと触れる
「すぐにA殿の居場所を見つけてくれ」
鴉が答えるよりも先に、白い般若の化身は夜闇へ紛れ消えた
これほどに異常な森は初めてだと冨岡は獣が暴れたような道を羽織で鼻を押さえながら駆ける
至るところ斬撃で刻まれた跡やら倒木やらで尚の事足場が悪い上、赤黒い液体に足を滑らせそうになる
これは一体、何が起こっているのか。誰かしら生きているものがいれば良いと思った矢先、こちらへ向かってくる気配を感じた
(鬼__ではない)
がさり、叢を飛び出してきた何人もの人は皆血相を変え冨岡にも見向きもせず森を抜ける方角へと走り去っていく
「鬼狩り様……!」
冨岡の羽織が悲痛な叫びと共に引かれ彼は逃げ惑う人々からそちらへ目をやる
齢十にも満たない女の子供が涙の膜を張りながら冨岡を見上げている
「一人か」
「かあさまがまだ中に……でも、鬼狩り様が必ず助けるって…!」
少女の言う鬼狩りは冨岡の推測どおりならばAで間違いはない
昼間の一件がかなり長引いているようだ
「けど、鬼狩り様、たくさんのひとを助けてて、傷だらけなの!
お願い鬼狩り様、あの人を…」
堰を切ったようにぼろぼろと涙を溢す幼子に冨岡はぎょっとする
人に目の前で泣かれることなど全くない冨岡にとって慰め方などの知識は乏しい
どうすればいいのか、思考回路を巡らせ辿り着いたのは以前Aが産屋敷邸へ共に向かう際迷子の童に頭を撫でていたのを思い出した
「………大丈夫だ」
目線を合わせできる限り安心させるように口角をつり上げると少女はまんまると目を開き、やがて鼻を啜りながらも頷いた
「早くこの先を抜けろ。母親に生きて会いたいのならば」
「うん…!」
涙を拭い走り出した娘の背中を暫し見届け再び地を蹴る
少女が言うにAは傷だらけでありながらも民を見捨てていない
そのお節介なところが鬱陶しいと思っていたが、それに救われるものもいるのだ
人ならざるものかと疑ったあの柔らかい冷たさをもつ掌が無性に忘れられなかった
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蜜柑(プロフ) - あいうえおさん» 誤字指摘ありがとうございます…まさか主人公である彼の名前を間違えるとは申し訳ありません…… (2019年6月24日 23時) (レス) id: f7e2178304 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - すいません。「炭次郎」じゃなくて「炭治郎」ですよ。 (2019年6月24日 22時) (レス) id: d4ea0d195c (このIDを非表示/違反報告)
蜜柑(プロフ) - やよいさん» コメントありがとうございます…!やよいさんの作品も閲覧させていただいているので作者様からそう言ってもらえて嬉しいです! (2019年5月20日 17時) (レス) id: f7e2178304 (このIDを非表示/違反報告)
やよい(プロフ) - はあ、、もう面白すぎです。。文才神がかってます。。大好きです。 (2019年5月20日 0時) (レス) id: 7302d83944 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蜜柑 | 作成日時:2019年5月6日 10時