本題 ページ25
鮭大根一つで冨岡の微笑みが見られるとは、鮭大根様様だと思いつつAはだらしなく開いた口を閉じる
一先ず、出された昼餉は片さねばと鮭大根を一番に箸で切身を解す冨岡に倣い箸を持った
下拵えも凝った汁物は具そのものを活かし、その温かさは心と共に腹を満たす
街道で店を構えてもやっていける程の腕だが、と煙管を吹かすために外へ出た店主を思うが彼が嚔をしていることは二人は知らない
『……なあ、冨岡はん』
黙々と箸を進める彼が視線だけを寄越す
女は箸置へ箸を置くとまるでもう手をつけないと食事を止めてしまった
何やら大事な話があるのかと思うほどの重々しい雰囲気に自然と冨岡も茶碗を机へ下ろす
『あんさんも薄々思てる思うけど、うちは長い間色んな人を見てきいした。老若男女、誰彼構わず』
それは冨岡本人も僅かではあるものの、彼女と共に空間を共有することで感じていた違和感だろうか
悲鳴嶼のみならず産屋敷、はては自身の師匠である鱗滝と。その人脈の広さだけでなく本人の不可解さにも幾度と心中疑問に思っていた
こくりと頷けばAはくすりと笑い声を漏らす
『やから、それなりに目は肥えとると自負できます。どんな人柄なのか、待遇を与えられたのか……』
光に照らされ輝く二つの翡翠は何もかも見透かしているのだと、暗に言いたいのか
怪訝な顔つきで彼女を睨めば彼女は寂しそうに一度目蓋を伏せた
再び現れた深緑は寂寥なんてどこへ、普段の読めないものへと色を変化させた
『そうは言うても全てが分かる訳とはちゃいます。ぼんやりと、はっきりとは分かりまへん』
「……何が言いたい」
『単刀直入、言いますと。要はあんさんが心配なんどす』
冨岡の眉間に深く皺が刻まれた
「お前に心配される筋合いはない」
いやに突き放すような冷たい物言いのせいで多くの人が離れていったのだろう
Aは今の一言は俺の事なぞで頭を悩ませるのは間違いだと言いたいのだと解釈した
彼も実際にそう伝えたかったのだ……言葉足らずに拍車がかかり勘違いされそうだが
『……別に無理にうちに話せとは申しまへん。唯、あんさんにいつか心を許せる方が現れたら…その胸中に巣食うモノを吐き出してほしいんどす』
_そうやって重圧に潰され狂人と化した人なんぞ何人も見てきました
真っ直ぐと冨岡を見つめる瞳は何故だか全く容貌も似ていない筈の亡き姉や友人を連想させ見ていられなかった
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蜜柑(プロフ) - あいうえおさん» 誤字指摘ありがとうございます…まさか主人公である彼の名前を間違えるとは申し訳ありません…… (2019年6月24日 23時) (レス) id: f7e2178304 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - すいません。「炭次郎」じゃなくて「炭治郎」ですよ。 (2019年6月24日 22時) (レス) id: d4ea0d195c (このIDを非表示/違反報告)
蜜柑(プロフ) - やよいさん» コメントありがとうございます…!やよいさんの作品も閲覧させていただいているので作者様からそう言ってもらえて嬉しいです! (2019年5月20日 17時) (レス) id: f7e2178304 (このIDを非表示/違反報告)
やよい(プロフ) - はあ、、もう面白すぎです。。文才神がかってます。。大好きです。 (2019年5月20日 0時) (レス) id: 7302d83944 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蜜柑 | 作成日時:2019年5月6日 10時