みえないモノをみる。 【文スト】

綾辻探偵事務所にて＿＿壱 ページ6

私はとある探偵事務所の扉の前に立っていた。中から聞こえてくる声は聞き慣れた……あれ前言撤回。誰この人。




『おおおお兄ちゃん、とうとう彼女作ったのか!?』




私は叫び乍ら慌てて扉を開ける。

事務所の中に居たのは、長身で無駄にイケメンな男の人と、前髪が……キマッてる？ のか、とにかくそんな感じの女の人。


長身の男性──お兄ちゃんが、何故か不快そうに「冗談は程々にしろ」と云った。

じゃあ、彼女じゃないのかな。そう思い女性の方を見ると、ポカンと口を開けて私とお兄ちゃんを交互に見ている。



「…………へ？ ……あの、失礼ですが、今何と仰いました？」



私は戸惑いつつも、先程自分が口に出した言葉をそのまま云った。違う、と鋭い声が間に入ったが無視した。

女性は「……おに、え。お兄ちゃん……」と何度かお兄ちゃん、という言葉を復唱した。



「おおおお兄ちゃん!? え、え……えええええ!? いいい妹さん!?」



そして唐突に叫んだ。お兄ちゃんの額に青筋が浮かび、あっ……と思ったが、時既に遅し。

「黙れ辻村君」という言葉と共にお兄ちゃん渾身のデコピンを喰らい床に蹲った辻村、──。


そうか。

あの時のか。



『お兄ちゃん』



私が呼びかけると、お兄ちゃんは私の近くに来て私の目線に合わせた。



「凛、Repeat after me」

『＿＿Yes』

「お兄ちゃんに彼女は居ない」

『お兄ちゃんに彼女は居ない』

「辻村君は給仕(メイド)だ」

『辻村君は給仕(メイド)だ』

「いや違いますよ!?」

「お兄ちゃんは凛が居る限り彼女は作らない」

『お兄ちゃんは凛が居る限り彼女は作らな……いや作れ！』



私は思わず突っ込んだ。お兄ちゃんは私に一体何を云わせるつもりだ。

そしてそこに辻村ちゃんが「ちょ、待って下さい！」と入り込んだ。



「いや、あの私未だ状況が飲み込めてないんですけど……あの、先ずお二人はご兄妹なんですか？」

『違います』
「そうだ」

「……済みません、何方ですか？」



辻村さんが困惑した表情で私に訊ねる。私は少しだけ溜め息を吐いた。



『血が繋がってないだけです。お兄ちゃ……行人(ゆきと)さんがそう呼べと云うので呼んでいるんですよ』

「じゃあ、ご家族では、ないんですね」

『はい』



私が肯くと、はあぁぁぁぁ……と膝から崩れ落ちる辻村さん。




「滅茶苦茶吃驚した……！」

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