５年前 ページ7
雅「智兄…どしよ…俺が身体弱いから…父ちゃんも母ちゃんも、嫌いになったんじゃ…」
智「雅紀、大丈夫だから。母ちゃんは、大丈夫だから。」
警察から連絡があり、智と翔は弟達を連れ病院にきた。
事故が起きたとき父親は即死だったらしく、母親は治療を受けたものの、今晩が山だろうと言われた。
雅紀は熱があるせいか、突然のことに泣いてパニックになり、和也と潤は俯いたまま、黙っていた。
目の前には、沢山の機械に繋がられ、包帯であちこち巻かれている母親が、横たわっている。
雅「ゴホッゴホッ！」
智「あまり泣くと、熱上がるよ？」
雅紀は昨晩から熱があり、今も決して低くはない。
翔「どした？」
ふいに潤の手が、翔の服の裾を掴んだ。
翔は、その手を取り、空いている手で隣にいる和也の手も取った。
双子の肩が、微かに揺れる。
翔「大丈夫だ。兄ちゃん達がいるから。」
手に力を入れ、末の弟達の手を強く握りしめた。
何が大丈夫なのか、分からない。
でも、言わずにはいられなかった。
一瞬の静寂も、数年に感じられる室内。
雅紀の咳だけが響き、誰も何も言わなくなった。
静けさを破ったのは、母親だった。
母「…智、翔。」
智「母ちゃん！？」
翔「母さん！！」
うっすらと開かれた目には、5人の息子たちの泣き顔が見えた。
母「ごめ…んね。」
智「…な…にが？」
母「おと…と、たち…よろしく…ね。」
翔「何言ってんだよ。そんなん、いつものことだろ？」
母は、切なそうに微笑んだ。
母「雅紀…和也…潤…お兄ちゃ…の、いうこ…と…ちゃんと…聞いてね…」
雅「母ちゃん！俺、良い子にするから！」
和「母さん…ねぇ、そんなこと言わないでよ…」
潤「…母さん？何言ってんの？」
母「みん…な、大好きよ…」
ピーという機械音が鳴り響き、医師や看護師が続々と駆け込んできた。
泣き叫ぶ弟たちを、兄二人が抱き締める。
その夜、5人の兄弟は両親を失った。
翔「曲がることなく、育ってくれて良かったよね。」
最後の一口を頬張る。
智「ね。おいら達、子育て頑張ったよ。」
翔「本当だよ。」
智「でも、手が離れるのが少し寂しいけれど。」
我儘だよねと、微笑む兄を見て、翔が言う。
翔「雅紀も和也も潤も、将来どうなるんだろうなぁ。」
智「元気にいてくれたら、何も望まないよ。」
ご馳走様と手を合わせる。
ドアにつけているベルがカランと鳴り、来客を告げる。
智翔「いらっしゃいませ。」
−皆が笑っているのが、一番の幸せだから…
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作成日時：2013年1月31日 23時
