記憶２ ページ44
子どもは時間が経てば成長し大きくなり、少しずつ親の手を離れるようになる。
だが、雅紀は違った。
和也と潤が元気に大きくなるのに比べ、雅紀は身体が弱く、他の兄弟より幾分手がかかることが多い。
双子が幼稚園に通うようになった年。
突然、母が父の海外出張について行くようになった。
当時、雅紀５歳、智は１３歳だった。
両親が留守にする間、父方の祖父母が泊まりに来てくれて、面倒を見てくれていた。
ある日の夜。
喉の渇きを覚えた雅紀は、雷が恐いからと翔を起こし、水を飲みに２人でリビングに向かった。
しかし、その足はリビングのドアの前で止まる。
祖母「…あの人にも困ったものね。可愛い息子達をおいて、海外に一緒に行くなんて。」
祖父「まぁ、可愛い孫と一緒に過ごせて、私的には構わないんだけどね。」
ドアの向こう側から祖父母の声が聞こえ、『あの人』が何故か母親だとすぐに分かった。
雅紀は、翔のパジャマの裾を無意識に握った。
祖母「私も同感ですけれど…でも、母親としてどうなのかしら？と、少し思ってしまって。」
祖父「…仕方ないだろ。双子の世話だけでも大変なのに、雅紀も身体が弱いんだから…もう、精神的に疲れてしまったのかもしれんな…。」
パジャマを握る手に、力がこもった。
翔は雅紀を抱き上げ、そのまま部屋に戻ると布団に座り、雅紀を強く抱きしめた。
震えているのが自分だと、翔は気が付いた。
雅「…しょうにぃ…ぼくのせいなの…？」
雅紀の目は虚ろ。
まるで表情が欠落したようで、翔は更に力を込める。
翔「違う…そんなの、違う！」
雅「…おとうさんとおかあさんが、おしごといそがしいのは、ぼくのせい？」
翔「雅紀！違うから！！」
声を聞きつけた智が、部屋のドアを開ける。
智「どうしたの？」
翔「智兄…。」
隣に座った智に、翔が説明をする。
雅「…さとに…ぼく、わるいこなの…？いっぱい、おねつだすから、おかあさんいないの？」
智「違うよ。お母さんは、お父さんの仕事のお手伝いをしているんだ。雅紀のせいじゃないよ。」
雅「…どうやったら、おかあさんがおうちにいてくれるかな…かずとじゅんがね、さみしいってなくの…おかあさんにあいたいって…」
その晩、外は土砂降りでも、雅紀が涙を流すことはなかった。
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作成日時：2013年1月31日 23時
