月下の奇術師に惚れられたようです。【怪盗キッド】

じゅうさん ページ14

KIDside





「…何を、何を抱えているんですか、貴方は。」




漸く聞けたというのに。




彼女の答えは。





『……別に何も。』




なんで。




何もないのなら。




どうしてそんな顔をしているんだよ。




俺はただの怪盗で。




彼女はただの一般人で。




俺が一方的に好いているだけで。




昨日、家に帰って彼女のことを調べたが、何も出てこなかった。




何も、だ。





普通は、家族構成やら両親の職業やら出てくるはずだが、彼女の場合は何も出てこなかった。




白紙だったのだ。





過去に何かあったとしか思えない。




社会的地位のある人間に情報を消されたとしか思えなかった。





情報を消すということは、情報を見られてはまずいということ。





それだけの力を働かせる何かが彼女にはあったということ。




…けれど見たところ、それは彼女一人で抱えているようだ。




めーたんてーやら空手の姉ちゃんやら財閥のお嬢様やらには言ってないようだった。




そこからなのだろうか。




彼女のこの性格は。




周りの人間と一緒になって笑ってはいるものの、どこか遠くにいる感覚。





……まあそれは俺一人が感じているものではないだろう。




この数日こいつを見ていたが、そのお友達も感じているように思えた。




何度も言うように、俺はただの怪盗。




こいつにしてみれば、鬱陶しいストーカー程度なのだろうか。




そのような人間に自分の過去を語ろうなどとは思わないだろう。




ああ。





俺は果たして、こいつを落とせるのだろうか。




俺はいつか、こいつの過去を知ることが出来るのだろうか。




……いつか、こいつは。




一人じゃなくなるのだろうか。

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