気づかないで ページ36
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渡辺「あ、いたいた。電話出ねぇから心配してたらこういう事ね。」
A「あ、えっと、」
岩本「良かったなA。」
A「うん。」
照にキスされている時に部屋のチャイムが鳴った。
照は慌てて身体を離した。
次に部屋の外でマネージャーさんと翔太の声が微かに聞こえてきた。
その間に照は服を着て、私は座り直した。
お互い会話もなく顔を見ることもなかった。
少しして翔太の呑気な声が聞こえて物凄く安心した。
でももしかしたら翔太に気付かれてるかもしれないと頭の中はパニック状態だった。
一方、照は何事もなかったように話しかけて来た。
その言動に驚いたが私も何事もなかったように言葉を返した。
渡辺「康二がA、Aうるせぇから早く行くぞ。」
A「うん。」
渡辺「てか、髪濡れてんじゃん。」
私の頭に伸びる翔太の手。
先程の照の行動がフラッシュバックして、無意識によけてしまった。
渡辺「え…？」
A「え？何？」
平然と。あくまで何もなかったように言葉を発する。
翔太は怪訝そうな顔で私と照を見た。
A「翔太。康二がうるさいんでしょ？可哀想だから早く行こう。」
渡辺「ん。」
岩本「美里。」
A「何？」
岩本「おやすみ。」
A「おやすみ。」
そう言って私と翔太は部屋を出た。
扉が閉まるほんの一瞬、照の項垂れるような姿が見えた気がした。
私の部屋に着き、翔太から鍵を貰う。
その鍵で中へ入るとスマホも鍵も机の上にあった。
渡辺「あった？」
A「あったよ。」
部屋の外で待っててくれた翔太にお礼を言い、康二の部屋に案内してもらう。
渡辺「なぁ。」
A「ん？」
渡辺「照となんかあった？」
A「何もないよ。」
なるべくさっきのことを思い出さないように答える。
自分の手を見ると少し震えていた。
渡辺「ふーん。」
興味のない返事が来たかと思えば髪に触れられる感触がした。
目線を上げると無表情の翔太がいた。
A「何？」
渡辺「次は嫌がったりしねぇんだな。」
何か言われるかもしれない。
そう思うと心臓がバクバクとなって止まらない。
お願いだから何も気づかないで。
A「なんのこと？」
渡辺「…さあな。」
再び翔太が歩きだす。
気まずい空気が流れたが、康二の部屋へ行ってしまえばお互いいつも通りに戻っていた。
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作者名：迷子のフクロウ | 作成日時：2022年12月17日 20時
