技術者 ページ7
·
「芸能活動しながら非常勤とはいえボーダーのエンジニアやってる人間なんて、世界で一人しかいないだろ」
「表側の人間をやってると、裏側の人間も気になるものですよ」
「だからってこんなブラックみたいな職場選ぶぅ？ 作業量多いし。俺は楽しいけどAはやってて楽しい？」
「元々理系なので。それに、トリガーには興味あったんです」
「それはやっぱ、出水の影響？」
そうですね、と頷く。
興味を持ち始めたのは、中学三年。
私がエンジニアとして働くようになったのは、高校一年の頃。
ボーダーが隊員を募るに当たり、真っ先に公開されたのがトリガーだった。
生身ではない、仮初の身体。設定によっては痛みを感じることも、温度を感じることもない。その身体で怪我をしても、生身に一切影響を与えない。
まるでVRの世界のようなそれに、最初は全く現実感というのが湧かなかった。
けれど公平が入隊しトリガーを使った感想を聞いて、漠然と、面白そう、と感じたのだ。
どんな仕組みなのか。何から作り出されているのか。そんな些細な好奇心から、トリガーへの興味は高まっていった。
そして、母親や事務所と相談、必要なら説得を繰り返すことで、高校一年の夏、ボーダーのエンジニアとなることが叶った。元々事務所は兼業を禁止していなかったし、戦闘員ではないのなら‥‥と許可が下りた。
事務所は、私が芸能の仕事を減らしてボーダーに入隊することにあまりいい顔はしなかった。けれど、最終的には「出水Aの選択肢や将来の可能性を狭めてはいけない」という社長の考え方により首を縦に振ってくれたのだ。
その点は本当に感謝しているし、事務所に恵まれたことを喜ぶべきだろう。
「エンジニアになったこと、後悔はしてませんよ。確かに大変ですけど、それ以上に面白いですし」
それに───と言いかけたとき、「こらA！！」と開発室に怒声が響いた。
びくりとそちらを見れば、開発室長がズンズンと歩いてくる。
「き、鬼怒田さん」
「いい加減帰らんか！ 夜8時半！ 終業時間はとっくに過ぎとるぞ！」
「は、はぁ〜い」
すみません、と帰り支度を始めたのを見て、全く、とぷりぷりしながら他のエンジニアへ書類を渡しに行った。用事ついでに私の様子を見に来たといったところか。
「───それに、ボーダーが私のシフトがっちり管理してるので」
こそっと続ければ、寺島さんは「あの人本来親バカだからね。そのせいもあるよ」と苦笑したのだった。
·
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 223人がお気に入り
お気に入り作者に追加
「ワールドトリガー」関連の作品
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：夏向 | 作成日時：2020年9月17日 21時
