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「――先生。先生とAは、いつ出会ったのですか?」
「……気になりますか?」
松陽は、にっこりと笑みを浮かべて桂に問い返す。
ええ、まあ。桂は縁側で一人柱に寄りかかるAを横眼に、机の上に広げた本を書き写していった。ときおり、松陽の訂正を聞きながら。
松下村塾には、桂と高杉が来る前から何人も生徒がいた。誰も彼も、松陽の話を真っ直ぐに聞き、彼を師と敬い、その朗らかな性格に誰もが心を砕いた。けれど、その中で一人少しだけ違った。お互いが皆仲が良いのに、浮き出るように、空間の外にいるような彼女が、何故ここにいるのだろうと思った。
透き通った、縹色の瞳がこちらを見た。ぎょっとして、慌てて目を逸らす。まだあの瞳には慣れない。
「A、お使いを頼んでもいいですか」「……何?」唐突にそう切り出した松陽は、簡単な物を買ってくるようAに頼んで、そして金を渡すと気をつけて、と言って背中を見送った。
「……さて、」
「あの、どうして」
「Aはね、銀時と違って自分で自分の居場所から逃げて来た子なんです」
掠れた声が出る。
擦り切れた、何人も侵入を許さないような、けれどどこか抜けたA。孤児のくせに、と塾生たちが陰口を叩いていたのは聞いたことがあるものの、またそれとは違った事情に声が出ない。
困ったように笑う松陽が、晋助と銀時には、内緒ですよ。と言った。
「元から、育った場所があったのにそれを捨てて、遠くまで逃げた。それこそ、何日も、何週間も、何カ月もかけてまで」
「どうして、そうする理由があったのですか」
「――……それは、…………それはね、小太郎。彼女は、自分が、心の底から憎くて嫌いになってしまったから」
極めて慎重に、松陽が言葉を選んでいた。
Aに限ってそんな、なんて言葉はなかった。
「さあ、今日はここまで。今日の授業の続きは、また明日」
×××
松陽の過ちと言えば、ただ一つだけ。
「明日も、最前線に立つよ。……小太郎、よろしくね」
「……ああ」
彼女に再び、憎しみと自己嫌悪を背負わせてしまったこと。
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ルアルア(プロフ) - 無影灯さん» コメントありがとうございます!更新が遅くお待たせしてしまうことも多いかと思いますが、これからも応援していただけると嬉しいです! (2020年3月29日 17時) (レス) id: 013413cedf (このIDを非表示/違反報告)
無影灯(プロフ) - 見入っちゃいました…とても素敵なお話でした!更新応援してます! (2020年3月23日 21時) (レス) id: 26d889b496 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - 神月さん» コメントありがとうございます!ありがたいお言葉本当に感謝します...相変わらずの低浮上ですが、読者様のお言葉を励みに頑張ってまいります!! (2018年8月30日 10時) (レス) id: 61b26fbf84 (このIDを非表示/違反報告)
神月(プロフ) - 読み応えがすごくあります!次の話がとても気になります!面白いです!作者様のペースで、更新頑張ってくださいね。応援してます! (2018年8月27日 6時) (レス) id: 52a5891399 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - ginさん» コメントありがとうございます! 更新は相変わらず遅いですが、面白いと思っていただけるような作品を目指して頑張って行きます! (2018年7月8日 9時) (レス) id: 013413cedf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ルアルア | 作成日時:2018年4月7日 3時