雪花 ページ33
雪花
×××
「A」
ちらちらと雪が降っている。血と泥が混じって汚いそれらを踏みながら、空を眺め棒立ちになるAの背を呼んだ。
振り返ったAの目が細められる。それまで吊り上がっていた彼女の目尻は柔らかく緩められた。
「帰るぞ」
「……今回は、勝ったんだね」
ぎゅ、ぎゅ、と雪を踏む。その足跡は、やはり赤と茶で染められていた。
坂本が離脱してからというものの、戦況は芳しくない日が続いた。物資の調達、武器、味方の士気。その他諸々の偶然が不運にも繋がり、連日敗北を喫していたのが、たった今、覆された。
天人と攘夷志士がぶつかるや否や、各所から悲鳴が上がる。血を纏い敵を叩き切るAの姿は正に鬼人だった。
ぐっと息を呑む。ふと気づいた血生臭さに周囲を見渡した。
「――ッ!」
そこは天人の死体の山だった。
「晋助」
振り返る。
舞い落ちる雪の間、Aがこちらを見つめている。代赭色の瞳が逸らすことなく、真っ直ぐに俺を射抜いていた。
――――白銀の獅子を探せ!! 奴を殺せば勝てる!
孤独。協調。残酷。抱擁。
どれもAにあって、Aにないもの。彼女が捨ててきたもの。
戦争は何もかもを失う地獄だ。味方を目の前で失い、守るべき存在が人質に取られる。時には自らの命さえも落としかねない。
そんな場所で生き抜くためにと、Aは簡単に全てをかなぐり捨てた。
それが正しい判断かは、もうわからない。
けれどAは、それが正しいことだと信じている。そうしなければならない。
それこそが彼女の信念なのだ。
先生を救う。ただ、それだけのために。
「これからもっと寒くなるよ。もう帰ろう」
「……ああ」
そう言ったAは、もう一度も振り返らなかった。
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ルアルア(プロフ) - 無影灯さん» コメントありがとうございます!更新が遅くお待たせしてしまうことも多いかと思いますが、これからも応援していただけると嬉しいです! (2020年3月29日 17時) (レス) id: 013413cedf (このIDを非表示/違反報告)
無影灯(プロフ) - 見入っちゃいました…とても素敵なお話でした!更新応援してます! (2020年3月23日 21時) (レス) id: 26d889b496 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - 神月さん» コメントありがとうございます!ありがたいお言葉本当に感謝します...相変わらずの低浮上ですが、読者様のお言葉を励みに頑張ってまいります!! (2018年8月30日 10時) (レス) id: 61b26fbf84 (このIDを非表示/違反報告)
神月(プロフ) - 読み応えがすごくあります!次の話がとても気になります!面白いです!作者様のペースで、更新頑張ってくださいね。応援してます! (2018年8月27日 6時) (レス) id: 52a5891399 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - ginさん» コメントありがとうございます! 更新は相変わらず遅いですが、面白いと思っていただけるような作品を目指して頑張って行きます! (2018年7月8日 9時) (レス) id: 013413cedf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ルアルア | 作成日時:2018年4月7日 3時