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瞼を押し開けると、木の目の天井が視界に映った。
ぐるりと首を回して自分の肩に目をやると、薄手の着物に着替えられえていて――けれどそれは血塗れだから、重ねて着ていた着物が脱がされているとすぐに気づいた――、少し動かすと痛みが生じた。
一体、どれほど眠っていたのだろう。障子の先の外は薄暗くて、月の光だけが零れている。そこに、すらりと背の高い男の影が現れた。静かに障子を開け、おう、と片手を挙げる。
「目、覚めたようじゃのう」
「……あれから何日経った?」
「おまんが戻って来てから四日じゃ。ほれ、水でも飲んだらえい」
陽気な声でそう言った坂本がこちらに歩み寄ると、手に持った水を床に置いて私の背中に手を回し、ゆっくりと上体を起き上がらせる。
いたた、と呻くと我慢せい、と宥められる。差し出された水を喉に流して、はぁ、と息を吐いた。
両の手で顔を覆う。眩暈がして、これで何度目かの溜息をした。
――懐かしい夢を見た。
おそらく、熱に浮かされていたのだろう、身体がぼんやりと熱い。刀傷を受けるといつもこうだ。けれどここまで長く眠っているなんて思わなかったけれど。
心配そうな表情で坂本がこちらを窺ってくるから、大丈夫だよ、と礼を述べる。彼は、いつも能天気なように見えて人のことをよく見ているから下手な誤魔化しは効かない。じっとこちらを見据える瞳に、まずい、と思った。
「おまん、しばらくは戦に出ん方がええ」
「また、どうして――」
「そんな状態で出たところで無駄死にするだけじゃき。えいか。おまんはわしらにとって重要な切り札にもなる。ここで動けなくなったら、それこそ戦況は最悪に転がるんじゃ」
「それは」
言葉をぐっと飲み込んだ。
百人殺しの人斬り。白銀の獅子。そんなものいらなかった。ほしいのは、私がただ一つ、喉から手が出るほどに欲するのは、先生の命、それだけ。だってそれだけがこの戦争に参加する唯一の目的なのだから。
坂本が、私を見て小首を傾げる。目だけを上げて、なんでもないとかぶりを振った。まあ、彼のことだからなんとなく察しているところはあるのだろうけど。
「桂が言うには、まだ出陣の時は遠い。今は傷を癒す事を最優先にしとうせ」
「……そうだね。君の言う通りだ」
坂本の、疑るような視線から逃げるように俯いた。
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ルアルア(プロフ) - 無影灯さん» コメントありがとうございます!更新が遅くお待たせしてしまうことも多いかと思いますが、これからも応援していただけると嬉しいです! (2020年3月29日 17時) (レス) id: 013413cedf (このIDを非表示/違反報告)
無影灯(プロフ) - 見入っちゃいました…とても素敵なお話でした!更新応援してます! (2020年3月23日 21時) (レス) id: 26d889b496 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - 神月さん» コメントありがとうございます!ありがたいお言葉本当に感謝します...相変わらずの低浮上ですが、読者様のお言葉を励みに頑張ってまいります!! (2018年8月30日 10時) (レス) id: 61b26fbf84 (このIDを非表示/違反報告)
神月(プロフ) - 読み応えがすごくあります!次の話がとても気になります!面白いです!作者様のペースで、更新頑張ってくださいね。応援してます! (2018年8月27日 6時) (レス) id: 52a5891399 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - ginさん» コメントありがとうございます! 更新は相変わらず遅いですが、面白いと思っていただけるような作品を目指して頑張って行きます! (2018年7月8日 9時) (レス) id: 013413cedf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ルアルア | 作成日時:2018年4月7日 3時