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痛い。痛い。――痛い。
――ザアアアアァァァ……
足袋はびっしょりで、白かった着物は己の血と天人の血で赤黒く染まり、髪から滴る雫は濡れた地面に消えた。
地面に溜まった水を踏むと、泥で汚れた着物に染み込む。
「――ぁっ、ああ!」
木の根で滑った足は地面への踏ん張りなど効かず、身体はいとも容易くそこへ倒れた。
「……痛い、なぁ……」
――――ありゃあ人間じゃねえよな、正直
――――そろそろあの人も、戦の途中でおっ死にそうだよな
憎まれていた。女の身だからと蔑まれていた。だから誰よりも強くあろうとした、最前線で立ち続けた。兵を率いることなく、一人で戦う事で自身の強さを示した。けれどそれは逆効果で、自身を余計に孤独へといざなう結果となってしまう。
強くなければいけないのだ。そうすれば、松陽と交わした約束を守ることができる。この乱れた世界の中で生き残れる。大切な仲間と共に、天道衆に連れ攫われた松陽を取り戻せる筈だ。
「こんな筈じゃなかったのに」
――――……辛くねェか
「辛いよ、晋助」
このまま死ぬのだろう。
このまま一人でここで。
ずるりと樹に寄りかかって両目を閉じる。すぐ傍で雨が鳴り響いて、煩い、と思ったけれど、地を打ちつける雨音の中で砂同士がぶつかり合う何かも聞こえた。それは、目の前で途切れる。
朧げな視界の中で、誰かがそこにしゃがんでいた。
首筋に手が触れられて、ゆっくりと持ち上がるとAの頬を撫ぜた。熱を帯びた掌から温度が広がっていったので、ぼんやりと瞼を押し開く。「起きたか、A」
そこにいたのは、雨に濡れる高杉だった。
「本当に、お前の声は小せぇなぁ……。聞こえねぇよ」
「――晋助……」
「無事じゃねぇみたいだな」
目を閉じて高杉の手に頬を寄せる。脱力して、このまま眠れてしまいそうだ。
「何一人でかっこつけてんだ。……帰るぞ」
「駄目だよ。天人に見つかったら、どうするの」
「逃げるだけだ」
Aの腕を首の後ろに通し、足の裏に腕を引っ掛けた高杉は軽々とAの身体を持ち上げた。
「もう大丈夫だ。俺が護る」
その言葉に、泣きそうになった。
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ルアルア(プロフ) - 無影灯さん» コメントありがとうございます!更新が遅くお待たせしてしまうことも多いかと思いますが、これからも応援していただけると嬉しいです! (2020年3月29日 17時) (レス) id: 013413cedf (このIDを非表示/違反報告)
無影灯(プロフ) - 見入っちゃいました…とても素敵なお話でした!更新応援してます! (2020年3月23日 21時) (レス) id: 26d889b496 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - 神月さん» コメントありがとうございます!ありがたいお言葉本当に感謝します...相変わらずの低浮上ですが、読者様のお言葉を励みに頑張ってまいります!! (2018年8月30日 10時) (レス) id: 61b26fbf84 (このIDを非表示/違反報告)
神月(プロフ) - 読み応えがすごくあります!次の話がとても気になります!面白いです!作者様のペースで、更新頑張ってくださいね。応援してます! (2018年8月27日 6時) (レス) id: 52a5891399 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - ginさん» コメントありがとうございます! 更新は相変わらず遅いですが、面白いと思っていただけるような作品を目指して頑張って行きます! (2018年7月8日 9時) (レス) id: 013413cedf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ルアルア | 作成日時:2018年4月7日 3時