傷跡 ページ23
傷跡
×××
「いたぞ、あそこだ!!」
「――……っち、くそ……」
足を引き摺りながら森の奥へ進むAは脇腹の傷を抑えた。
最悪、そう呟いた言葉は暗い森の中に吸い込まれる。
――事の発端はつい数十分前の事だった。
作戦通り、戦は上手く事を運べていた。桂が指示したとおりに皆が動き、次々敵を薙ぎ倒していく。先日まで負け戦続きだったからか、皆の士気が下がっていたが、それでも猛進するAの背中はどこか必死さすら感ぜられた。
そのAが追い詰められたのは、ほんの一瞬、手練れでなければ気が付かないような隙。短い発砲音。Aの脇腹を弾が通り抜けていった。
鮮血が地面へ零れ落ちる。Aの着物はみるみる赤く染まっていった。
「……は、ァ……。くそ」
「神薙に当たったぞ! 殺れ、殺れえェ!!」
周りを見渡すが、どうやら囲まれていたらしい、いつの間にか一緒に来ていた味方は皆虫の息だった。
――まだ、まだ戦える。
震える手で剣を握る仲間は怯えた目でAに視線をやった。
「……晋助たちを。それまで、こっちで気を引くから」
「で、でも」
「早く!!」
「おいおい、いつまでお喋りしてるんだ? お前を殺っちまえば、攘夷志士共も少しは大人しくなるだろうな!」
空を斬って弓矢が飛んでくる。負傷兵を庇ってその矢を叩き切るが、一向に停まる気配はなかった。
血に染まり始めた着物を翻してAは森の方へ走り出した。
――迂闊だったと後悔したのはそれからすぐ後だった。
敵を斬り殺して逃げている筈なのに、敵の数が増えている。辺りも暗くなって、森の中は随分視界が悪くなっていった。
息を整えようと木の幹に腕を置いて姿勢を屈ませる。冷や汗が地面へ落ちていった。
背後で茂みが動く。Aは手近の枝を掴んで木に登った。なるべく高い所へ向かい、息を潜める。真下で天人がきょろきょろと辺りを見渡し「いたか?」「いいや、さっきまでここにいた」「もっと辺りを探せ」と走り去った。
太い枝に深く腰を下ろす。ようやく一息吐けたと思った。
「……まずいなあ、これは」
木の根に、一匹の猫がいた。
「にゃあ」
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ルアルア(プロフ) - 無影灯さん» コメントありがとうございます!更新が遅くお待たせしてしまうことも多いかと思いますが、これからも応援していただけると嬉しいです! (2020年3月29日 17時) (レス) id: 013413cedf (このIDを非表示/違反報告)
無影灯(プロフ) - 見入っちゃいました…とても素敵なお話でした!更新応援してます! (2020年3月23日 21時) (レス) id: 26d889b496 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - 神月さん» コメントありがとうございます!ありがたいお言葉本当に感謝します...相変わらずの低浮上ですが、読者様のお言葉を励みに頑張ってまいります!! (2018年8月30日 10時) (レス) id: 61b26fbf84 (このIDを非表示/違反報告)
神月(プロフ) - 読み応えがすごくあります!次の話がとても気になります!面白いです!作者様のペースで、更新頑張ってくださいね。応援してます! (2018年8月27日 6時) (レス) id: 52a5891399 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - ginさん» コメントありがとうございます! 更新は相変わらず遅いですが、面白いと思っていただけるような作品を目指して頑張って行きます! (2018年7月8日 9時) (レス) id: 013413cedf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ルアルア | 作成日時:2018年4月7日 3時