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私をじっと見つめた彼がつぶやいたのは、まぎれもない私の名前。
私のことをこう呼ぶのはたったひとりだけ。
「……まふゆくん?」
家がお隣同士の、可愛がっていた男の子だけ。
懐かしい名前を口に出すと、目の前のあの子は、ぱああっと顔を輝かせた。
「わああAねえさんだ!! 久しぶりです!! 覚えてくれてて嬉しい〜!!」
喜びの感情をぎゅって詰め込んだみたいな表情をして、感極まったように、私を強く抱きしめる。
「え、え、ほんとにまふくんなの? え、ほんとに??」
うんうん!と力強くうなずく顔を改めて見つめると、確かに面影がないこともない。
眼鏡を外したからか、言われてみればそうかな、って感じはする。
空中に投げ出された両手が落ち着かなくて、ぐちゃぐちゃの髪の毛を綺麗に解いてあげると、私を抱きしめたまま、「えへへへっ」って笑った。
刹那、小さいときの記憶が一気によみがえる。
ふわふわとした、男の子にしては高くて優しい声でこぼれた笑い声は,
確かに聴き覚えのあるまふくんのものだった。
私が最後にまふくんと会ったのは、まふくんがまだ小学2年生だったころ。
あんなに小さかった身体は、今ではモデルみたいにすらりと伸びて、私をゆうに越している。
今だって、その大きな身体に私はすっぽりと包まれているわけで。
あんなに見とれていた男の子が、
まさか可愛がっていたあの子だったなんて。
きっと、こうやって毎日見つめてるだけで、いつかは会えなくなるんだろうなーって思ってた。
ただ、一方的に知っているだけの子だから。
それが当たり前だし、それ以上の関係に持ち込むつもりはさらさらなかった。
それなのに。
彼と目が合ったらいいな、なんて内心ぼんやり思っていたことはあるけど、こんなにきらきらした目で見つめられる日が来るとは思わなかったのに。
抱きしめられるなんて、どこの少女マンガだよって感じなのに。
「ごめん、学校遅れちゃうからまた今度! 絶対連絡するね!」
「Aねえさん、本当にありがとう!!」
スマートフォンを取り出して連絡先を交換した後、まふくんはそう言い残して、急ぎ足で去っていった。
連絡先を開けば、画面に映し出されるのは、「まふゆくん」の文字。
この5文字を見ただけで、私がこんなに笑顔になれるだなんて、きっとまふくんは知らないよね。
ふんわりと熱をもつスマホを握りしめ、私はヒールを鳴らしてホームへと向かった。
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ちょこ - かのこゆりさん» いえいえ、おかえりなさいです!コーヒーのお話、切なくてよかったです!また、コーヒーの違ったエンドや、コーヒーのまふくんsideも欲しいです! (2020年9月19日 10時) (レス) id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
かのこゆり(プロフ) - ちょこさん» コメントありがとうございます!返信遅くなってしまいすみません。実は受験生でして、受験勉強に集中するため活動休止していました。無事合格通知が届いたので、まもなく執筆再開予定です!気長に待っていただけると幸いです〜! (2019年12月25日 11時) (レス) id: fcfa2aebad (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ - 更新が止まってます!戻ってきてください!続き楽しみに待ってます!あとコーヒーの方のまふぃくんさお殿お話も!(´;ω;`) (2019年12月5日 20時) (レス) id: 1b1d47c664 (このIDを非表示/違反報告)
かのこゆり(プロフ) - ともさん» コメントありがとうございます!すごく嬉しいです…。この作品は、キーワード(「喫茶店」など)を交換しお話を書く、という一風変わったコラボになっております。実はあと2作品分のキーワードを頂いていて、現在執筆中です!気長に待っていただければ幸いです! (2019年10月26日 23時) (レス) id: a6d1b02f5a (このIDを非表示/違反報告)
とも(プロフ) - 好きです!続き待ってます! (2019年10月24日 20時) (レス) id: 25fb5b2d6d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:かのこゆり | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/kanokoyuri/
作成日時:2019年10月3日 23時