【あんスタ】夜行少女【逆先夏目】 (ページ8)

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1章　魔法使い( 6 ) ページ8

「それじゃあ今から子猫ちゃんに魔法を掛けてあげよウ。大丈夫、何も怖くないかラ。真っ直ぐに此方を向いテ。」

相変わらず街は人々の光を帯びてキラキラと輝いているし、雑音ばかりが行き交っている。

けれどそんな、普段耳を苛む雑音でさえも、イヤホンを着けていないのに今はあんまり気にならなくって。

夏目くんの声に従うまま、彼を真っ直ぐと見遣る。すると頬には彼の手が添えられていて、まるで逃さないと言われているかの様に。

本当に魔法使いに捕まった様な心地になりながら、彼の瞳を見詰め続ける。

「それじゃア、いくヨ。」

その声にこくりと頷いた。

『───君はとっても軽い。宙を舞う羽の様に、空を駆ける風の様に。今の君なら何処までも駆け抜けて行ける。…Aちゃん、君は空を駆ける風にだって成れてしまうんだ。』

さっきまでの変な抑揚が消えた、綺麗な声。

街の雑音が全て消えて、まるで夏目くんの声しか聞こえない様な不思議な感覚に陥ったままその声をただ聞き続ける。

彼に見詰められたままそう言われると、本当に自分が風になって、空を軽々と駆ける事さえ出来てしまいそうな気になって。

『この魔法は今晩限り、ボクと君が出会った今夜だけ。けれど忘れないで、ボク達はまた出会う。その時には違う魔法を君に掛けると約束しよう。』

そう語り終えれば夏目くんの手が頬から離れて行くのを感じる。…私は不思議とその言葉を聞き終えてからも彼から視線を離せずにいた。

なんだか、あの瞳に吸い込まれそうな、気がして。

「…………、」

「……ちゃん、子猫ちゃん。…大丈夫かナ？」

「…………、…なつ、め、くん。」

肩を揺さぶられ、はっ、と気が戻る。ぱちばち、瞬きを数回。

…自分はどうやら夏目くんの声を聞いたまま固まっていた様だ。

目の前には何処か心配そうに私を見詰める夏目くん。…少しぼーっとしただけのに。意外と彼は心配性なのかもしれない。

「頬に手を添えると魔法が効き易くなるかラ、子猫ちゃんにも試してみたんだけド……効果が効き過ぎた様ダ。」

「…………、これが、魔法。」

彼の言葉が頭の中で反芻する。頭の中で声が響いて離れない気さえ。これが魔法だというのなら、確かに頷けてしまう。

本当に身体が軽くなったかは分からないが、何故だかすとんと胸中ではこれが魔法なのだと納得している自分がいた。