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「おい死に損ない、窓辺掃除しとけよ」
「お任せを我が君」
「大先生、お前の我が君は俺だろう」
「はい我が君ご用命を…いや我が君多いんや…僕シンデレラちゃう…」
「王子も願い下げやろうな」
『…』
すっかり幹部の座を降り、幹部と総統サマの召使いに成り下がってしまった大先生さんの胸元に、ふと目が止まる。
せっせと窓に雑巾を擦らせる鬱さんの元に、私は歩いて行った。
『大先生さん、ネクタイ曲がってます』
そう言いながら、身長的に少し高い位置にある彼の胸元に手を伸ばし、赤いネクタイの位置を綺麗に戻した。
貴方は幹部だろう。
威厳の損なわれる身形はするべきじゃない。
体の動きを止め、私から触れられることに驚いたのだろうか…?彼は暫く呆けた表情を浮かべた。
「……ありがとうな、Aちゃん」
整いすぎ、美しすぎ、そして退屈であまりにも生気のない表情から一変、ふにゃっと表情を崩した彼に、やはり私は悪感情など抱けないのだ。
…例えほぼ裸同然の上半身を見られたのだとしても。
「鬱でええよ?」
『え?』
「"大先生さん"って呼び辛いやろ?
…皆僕のこと鬱って呼ぶから、鬱でええよ」
彼の優しげな眉尻に当てられ、私は小さく口を開いた。
『……鬱さん』
呼び慣れない名前を舌先で転がせば、彼…鬱さんはとても嬉しそうに顔を綻ばせる。
その時、ちかッと白い朝の光が、脇差の刃に刎ねた。
鬱さんの首筋に白い…いや、銀だ。銀の_____即ち鉄製の刃物が、後ろから突き付けられている。
怜悧な剣の柄を握っていたのは…総統サマ。
「次は首が落ちると言ったろう大先生…」
「ひんッ」
『そ、総統サマ…やめて』
例に違わず鬱さんを手に掛けようとする彼に抑止の声をかける。
幸い先程の幹部達とは違い、私の言葉は彼に届いたようだ。総統サマは渋々といった風に剣を退ける。
「ほんま…Aちゃんが唯一の良心やで…」
『はぁ…』
「あ、おい、そろそろ朝食の時間やぞ。食堂行かんと」
腕時計を見てトントンさんは振り向き様に扉を開け、私たちに早く部屋を出るよう促した。
何となく幹部に…というより男性の中に混ざっては行き辛く、私はそれとなく最後尾に回り込む。
…偶々、偶々だ
最後尾の私の目の前にゾムさんが並んでいたもんだから。
『____ゾムさん』
思わず、声をかけてしまった。
歩みを止めた彼はまだ部屋の内、その後ろにいる私も必然的にまだ談話室内に留まったまま。他は全て食堂に向かうべく廊下に出てしまった。
…絶好のチャンスだと、確信する。
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お月様 - 滅茶苦茶おもろかったです!待ってたけどようやく27話でロボロさんの所出た!続編おめでとうございます! (2021年1月2日 17時) (レス) id: b347abc4d4 (このIDを非表示/違反報告)
セツナ - 火ぃつけろ火ぃぃぃぃ!!!wwww腹筋バキバキになったんですけど腹筋返して()神様お疲れ様です! (2020年5月26日 21時) (レス) id: 274ac26baa (このIDを非表示/違反報告)
しゃち - 43の最初にある有限実行の“限”は“言”ではないでしょうか?勘違いでしたら申し訳ございません。ラットさんの作品大好きです! (2020年4月16日 13時) (レス) id: 6540cc437a (このIDを非表示/違反報告)
蓮 - うますぎませんか!?画力をわけて!!更新頑張ってください!!応援してます!! (2020年4月3日 23時) (レス) id: 5db7ec7919 (このIDを非表示/違反報告)
楓@卍教 - 絵も文もうまいだと…?神…?いや天才…?(錯乱)まじで好きです応援してます (2020年3月21日 15時) (レス) id: 84c734c3e6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ラット | 作成日時:2019年11月16日 21時