【ポケモン】晴天の私、或いは霹靂の貴方【デンジ】 (ページ1)

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Prolog-砂を噛むようなページ1

_______退屈だ

軍手を嵌めた指先が静電気でパチンと音を立てる。特に気にすることでもなく、手に持った太い配線を饋電盤に繋ぐ。ゴゥン…と重い音を轟かせる改造自動ドアの試作品に俺は満足し、愛着の生じたそれを撫でた。

「うん、良い調子だ。これなら、もっと大規模なものにしてジムに設置するのもアリだな」

あぁ、退屈だ。

代わり映えのない鈍色の町
そこで繰り返すは、砂を噛むように面白味のない毎日

「…今日も____現れちゃくれなかったな。俺を痺れさせてくれるような、強いポケモントレーナーは」

独りごちて、機械油まみれの軍手を外して放る。

二十と数年間。

太陽の街ナギサシティを故郷とし、年中冷たい海風に遊ばれながら育った俺は今となっちゃ、ポケモンジムの最奥で電機と戯れるか、シルベの灯台の最上階で、海の果てに聳える巨大な城の様な建造物を眺めるくらいしか、日々やることを失くしていた。

…_____俺とポケモン達の強さが周りを置き去りにしているのか、はたまた、俺に挑戦するトレーナーの質が落ちているのか？___

ジムリーダーを務めて以来、かつて大好きだったポケモン勝負に注いだ情熱や拘りや抵抗といったものが、霧の様に薄れていくのを俺は自覚し、そんな疑問をしょっちゅう頭に思い浮かべるようになって、

…それは、俺の元に訪れる挑戦者の繰り広げるポケモンバトルが、胸が虚ろになるほど味気ないものである度、重みを増す。
暇と鬱憤を持て余した俺が引き起こす停電騒動により、疎みを含む住民からの視線は、頭上に被さる憂鬱を尚助長させた。

「もし、次に来る挑戦者が俺の期待に沿う相手でなかったら」

「その時はポケモンリーグへ行こう」

曲がりなりにも、ポケモンジムを管轄するリーダーである俺が、自身の街を切り捨ててまで、冷たい決意を固めてしまうほどに。

俺は何者からか差しのべられる救いの手を、胡座をかいて待っていた。

だから、そんな朽ちた毎日を過ごす俺に差した、

あれはきっと光明だったのだと思う。

何事にも例外は存在する。
俺の頭上に濃い影を落とす、退屈で憂鬱な毎日にさえも。

________あの娘との出会いは

正に晴天に打ち鳴らされた雷鳴だった。

・

_____年中気温の低いシンオウ地方に吹き荒ぶ冷たい風が、私の耳と鼻先の感覚を容赦なく掠め取っていく。

『はぁ』

眼前に横たわる海が次第に黒みを増し、ぼやけた輪郭が縁取る夕日が、遠い稜線の彼方に沈む頃、私は目指していたその街に、とうとう足を踏み入れることとなる。

『着いた、ナギサシティ…』