白衣の天使じゃないけれど (ページ30)

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トイレを出て座席に戻ると、幹事の挨拶と共に飲み会は締めくくられた。
　さあ、最後の大仕事は今から。
「さあ二次会行きますか！」
「行く人手挙げてー！」
　周りがドンドン手を挙げていく中、私は断る理由を探す。
　そう、この二次会を断ることこそ大仕事なのだ。
「えー、Aちゃん行かないの？」
「はい、明日早くから用事がありまして……」
　全く予定は無いけど、私は一刻も帰りたいのだ。
「えー！ちょっとだし行きましょうよー」
　先輩と後輩２人はグルなのかと言わんばかりに、私をしきりに二次会に誘ってくる。
　それは会計が終わるまで続いて、居酒屋を出てからもしつこかった。
「すみません、私今日は本当に帰ります。次は行きますね」
　後輩はようやく諦めて他の職員と二次会会場に足を向ける中、先輩は私の元からいっこうに離れない。
「じゃあせめて送らせて」
「先輩、私大丈夫です。ほら、皆二次会行ってますよ」
　私は先輩と対峙していてるけど、２人になってしまった今助け舟を出してくれる人なんていない。
「俺本気だから」
「え……？」
「酔っ払った勢いで言ってるんじゃなくて、本当にAちゃんのこと好きだから」
　先程までの表情と違って、真剣に見つめてくる先輩に思わず私は視線を落とす。
「忙しい中一生懸命に仕事して、いつも笑顔のAちゃんが好き。後輩の面倒もよく見てるの知ってるし、患者さんからも頼りにされてるのも尊敬してる」
　思いのほか私のことを見てくれているのだと知り、私の思いとはうらはらに心臓がバクバクする。
　でもどれだけ嬉しい事を言われても、私の中にいる人は康二くんだけなのだ。

「あの先輩……」
「A！」
　私の言葉を遮るように、聞き慣れた声が聞こえる。
「こ、康二くん……！」
「帰るで」
　康二はいつもと違う低い声で私の元にやって来る。
「もしかしてAちゃんの彼氏？」
　先輩に問われ私が肯定すると、康二くんは先輩をチラリと流し目で見ながら、ガシリと私の手首を掴む。