ラズベリームースと、それから。 (ページ4)

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宮近side

誰もいないと思っていた店内で
後ろの席に1人、俯いた女性が座っていて
思わず声をあげる

そこそこの声の音量にも反応することなく、
女の人は俯いたまま微動だにしなかった

「…あの、閉店らしいです」

職業柄、普段の生活は目立つようなことは避けているにもかかわらず、なぜか放っておけなくて
気付けば声をかけていた

＂閉店＂という言葉に反応したのか
ゆっくりと顔を上げ俺の目に女性の顔が映る

頬にはうっすらと涙の跡がついていて、
少しだけ聞こえた2人のやりとりの結末が
容易に想像できた

そして何より、伏し目がちで表情に覇気がないけれど
…とても綺麗な顔立ちをしていて思わず言葉を失う

「とりあえず出ませんか？」

恐る恐る声をかけると、こくんと頷き
目の前のものを見つめる

目の前にはすでに冷めてしまったミルクラテと
一切、手がつけられることのないまま放置されている
ラズベリームースがあった

もったいないけど仕方ない、そう思っていると
おもむろに彼女がスプーンを手に取り２つに割る

割ったものをふた口で食べ
何か吹っ切れたように顔を上げる

「外にでまひょう」

モゴモゴと口元を隠しながら話すその姿に

「…ふは(笑)食べるんだそれ」

思わず声を出して笑ってしまった