百四二 ページ42
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ただ1人大広間に残されたAはへたりと転がった。一気に心臓がばくばくと激しく鼓動が鳴る。
「し、死ぬかと思った」
ぼうっと天井を仰いでいると、ひょっこりと見覚えのある顔が俺の顔を覗き込んだ。そして、心配そうに伺う顔をした。
「大丈夫ですか、光慶様」
「ッ蘭丸!?」
思わず声が出てしまった。誰もいないと思っていたのだ。
「おや、蘭をご存知なのですね。
それにしても…、ふむ…信長様の機嫌が久しく良いかと思われたら、光慶様は奥方様に似ていらっしゃる」
あれで機嫌が良いのか?信長のことはそれなりに分かっていたつもりだったんだが、あれは本気で殺されるかと思った。怖くて、手が震えた。
奥方と言われれば、思い当たるのは自分、帰蝶と生駒吉乃ぐらいなのだが…俺に似てるなんて、そりゃ帰蝶だろうな。
「奥方、様…美濃の」
「なりませぬ。その名を無闇に告げては」
無闇に、か。あまり信長の考えが分からない。庇われているのか、それとも見切って天下しか見ていないのか。
「憎みか、未練か」
「さあ、それは殿とあの方にしか分かりません。
それにしても、よくご存知で光慶様」
「…父から織田家のことは聞いていた」
にこにこと愛想良く蘭丸は笑っているが、敵だと認識されたら蘭丸であろうと刃を向けられるだろう。
「左様ですか」
「2回ぐらい死ぬかと思った…」
「信長様はなんと仰せられた」
光秀は織田では誰に気付かれるか分からないと、常に気を張っているため、織田の人間が居なくとも親子として接している。が、流石に今しがたは俺はそうしていられない。本当に逃げたくなった。信長に顔に傷でも付けられるのか、首を切られるのかと思った。
「俺の顔が目障りだと…」
「そうか…信長様がお察しになられているかはまだ分からないな」
なんだか織田に来て早々気が重くなるばかりだ。ここに戻ったことで信長を本当に助けられるのだろうか。
どうしても、考えたくないことを考える。
「一先ず、今日は屋敷に戻りませぬか?」
「うむ、…そうだな」
光秀は頷くと、微笑んだ。なんだか、むず痒い感覚がした。自分がもっと丈夫な人間だったら道三ともこんな仲に慣れたのだろうか。いや、このままで良かった。信長に会って身を焦がすような愛を感じられたのだから。
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愛之助(プロフ) - そうです《自主規制》のひとりごとです^^ (5月21日 19時) (レス) @page39 id: 71bd857e36 (このIDを非表示/違反報告)
カケオレ - ま、まさか……薬〇のひとりごと……!? (5月21日 19時) (レス) @page39 id: 1b32a494c8 (このIDを非表示/違反報告)
愛之助(プロフ) - 玲さん» 作品の目次ページにボタンとCSSて書いてあるとこでオフにして貰えたらノーマルになるのでお願いします〜🙏💦 (2022年7月10日 21時) (レス) id: 71bd857e36 (このIDを非表示/違反報告)
玲 - すいません。とっても面白いんですけど背景のせいで文字が見にくいです。 (2022年7月10日 20時) (レス) @page39 id: be882aa841 (このIDを非表示/違反報告)
なーーみ(プロフ) - 愛之助さん» もう本当に感謝しかないです( ; ; ) ありがとうございます。 これからも頑張ってください。応援してます!! (2021年5月17日 22時) (レス) id: af11d71d69 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:大手裏剣 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/oh19years/
作成日時:2019年9月29日 1時