百二六 ページ26
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「帰蝶殿?」
「…信玄公、」
話す気力一向にない。だが、皆毎日誰か訪れる。
「暫く1人にして欲しいと言っただろう」
「そうだな」
全くこの男は人の話を聞かない。とは言っても毎日人が訪れるのだからこの男に限ったことでは無いのだが。
「君は帰蝶Aと初めに名乗ったが、Aが元の名かい」
「…嗚呼」
「君は信長をただ見放すのか。本能寺で消える彼を」
この男はどこまでこの世を知っているのだろうか。明智光秀の存在も知っているのか。
「…ここにきた影をただ眺めるのか」
「初めから分かっていたのか」
勿論、許した分こちらも利用させてもらうがな、と余裕のある笑みを浮かべて返す信玄。確かに信長を守るなら、明智光秀を不意打ちに殺すことも出来る。だが、それはそれでいいのか。
特に自分から言えることは無い。人質としてもお役御免になった自分は何をしても意味をなさないのだから。
「最後に会ったとき信長に、お前が狙われぬように、暫し手放す。この天下を統一した暁に迎える、そう言われた」
「それはいつまでも来ることはないな。今のままでは何せ死ぬからな」
「…」
ただ、自分が無力にしか感じられなかった。信長の弱みとして自分が狙われるから、きっと守る為に遠ざけたのは分かってる。きっと会いに行ったとしても他人のように冷たくあしらわれ、避けられる。
自分だって、嫌だ。
「信長を…失いたくない」
ぽっと口から零れ落ちた言葉が心にすとんと染み渡る。自分の身ぐらい守る、俺だって男なんだ。
「うむ、信長はいい男を手に入れたなぁ」
「信玄公、自分がするべきことが分かった」
「それは良かったな。じゃあ礼にこれからも暇な私に付き合ってくれ」
にっこりと笑って、俺の足の上に頭を乗せてきた。そして、美人の膝枕は絶景だ。とふざけたことを抜かし始めた。
「…少しだけだ」
「君の太腿は存外柔らかいね」
「触るなっ」
くすぐったくて仕方なくて、信玄の手を退こうとしたら腕を掴み取られ、顔がぐんと近付いた。
「…君は本当に綺麗だな。目移りしそうだ。オマケに案外初心だからね」
初心なのは、少し気付いている。よく言われていた。
「浮気者は嫌われるぞ」
「俺も寂しいんだよ、一人ぼっちでね」
確かに、彼は独りかもしれない。愛しい者が自分の為に亡くなってそれは自己嫌悪に陥ったかもしれない。
でも武田信玄はまだ笑えるのだ。強く生きている。
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愛之助(プロフ) - そうです《自主規制》のひとりごとです^^ (5月21日 19時) (レス) @page39 id: 71bd857e36 (このIDを非表示/違反報告)
カケオレ - ま、まさか……薬〇のひとりごと……!? (5月21日 19時) (レス) @page39 id: 1b32a494c8 (このIDを非表示/違反報告)
愛之助(プロフ) - 玲さん» 作品の目次ページにボタンとCSSて書いてあるとこでオフにして貰えたらノーマルになるのでお願いします〜🙏💦 (2022年7月10日 21時) (レス) id: 71bd857e36 (このIDを非表示/違反報告)
玲 - すいません。とっても面白いんですけど背景のせいで文字が見にくいです。 (2022年7月10日 20時) (レス) @page39 id: be882aa841 (このIDを非表示/違反報告)
なーーみ(プロフ) - 愛之助さん» もう本当に感謝しかないです( ; ; ) ありがとうございます。 これからも頑張ってください。応援してます!! (2021年5月17日 22時) (レス) id: af11d71d69 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:大手裏剣 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/oh19years/
作成日時:2019年9月29日 1時