ハロウィン３-祭りの喧騒の追憶４ ページ10
「グレイグに、剣術と、もしかしたら背丈も…あいつ、最初はすごくちっぽけで、僕の方が高かったのに。最近急激に伸び始めて。この間なんて訓練中に力で押し返されて、尻もち着いてしまって。僕だって努力しているのに…何で追い越されて…」
悔しさから出そうになる、目頭にこみあげてくる雫を溢れさせない様耐えていると、マルスはしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「なあホメロス、私の名はマルスだ」
「は？」
全く予想だにしなかった答えに、ホメロスは目をぱちくりさせながらマルスを見上げる。
その拍子に溢れかけていた涙もどこかへ行ってしまった。
「そんな事は知っている」「今更何を？」などの反論すら出て来ない。
「そして私の妻はライマと言うのだが、私達の名の由来、何だかわかるか？」
「えと…マルス殿は軍神、ライマ殿は運命の女神の名、ですよね？」
「ああ、その通りだ！」
力強く肯定したマルスは、ぐしゃりとホメロスの頭を撫でた。
「昔から名前負けしていると自分でも思っていたが、初めて役に立てたな」
「はあ？」
全く意図が掴めず、軽くメダパニが掛った様なホメロスにマルスは強い視線を向けて言った。
「ホメロス、咄嗟の質問にも答えられるお前の賢さはとても重宝すると思うぞ。もしかしたら剣術はグレイグに追い越されてしまうかもしれないが、頭の回転だったらお前が城内随一だ。戦いで必要なのは力だけではない。無論それも大事だが、いかに敵の意表をつけるか、いかに敵の防御を突破するかの戦略も同じ様に大事なのだ。私はお前が、それをたやすく達成できる騎士になると思っている」
「マルス殿…」
「だからホメロス、お前はその随一の長所を決して手放すな。グレイグも努力を重ねて着実に強くなっている。お前の知略とグレイグの力が合わさり、最強の騎士となるのを、私も楽しみにしているぞ」
「はい！」
陽が傾き始めて城に戻り、庭のカフェテラスの椅子に腰を降ろすと、ホメロスは溜息をついた。
Aもそれに倣い、テーブルを挟んだ向かいに座る。
因みに仮装は解いた状態だ。
「そうだあの時、私を認めてそれを言って下さった方も確かにいらっしゃったのだ。それをすっかり忘れてしまっていたとは、情けない事だな」
額に手を当て、そう自嘲する。
そんなホメロスをしばらく見ていたAだったが、やがて口を開いた。
「あのねホメロス、私それでも貴方が羨ましいと思う」
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作者名：遠山すずか | 作成日時：2018年10月31日 10時
